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「マイクロツーリズムから考えるまちの魅力」アフターコロナのまちと賑わいを考える対談シリーズvol.05

こんにちは、エリマネこ編集部の田村です。
アフターコロナ時代の「まちづくり4.0」を、先進的な取り組みから探っていく「アフターコロナのまちと賑わいを考える対談シリーズ」第5弾。今回は、星野リゾートの企画開発部プロジェクトマネージャーである石井芳明さんをゲストにお迎えし、「マイクロツーリズムから考えるまちの魅力」と題してトークを行いました。

観光業は、新型コロナウイルスによる影響が特に大きかった業界です。強い逆風の中にあっても、星野リゾートはいち早く現場や経営面での対策を打ち出したほか、人の移動の変化を踏まえて、地元に目を向けて旅を楽しむ「マイクロツーリズム」のコンセプトを提案しています。
また、コロナ禍以前からも宿泊施設の開発にとどまらず、地域の魅力発掘に積極的に取り組んでいました。

身近な地域の魅力に目を向ける人が増えてきた中で、どのようにその魅力を発掘して形にできるのか。
山口県長門湯本の官民協働のまちづくりにたずさわった石井さんをお相手に、賑わいデザイナーとしてまちづくりに取り組むクオル代表の栗原知己が、そのテーマに迫っていきました。(進行:エリマネこ編集部・田村康一郎)

屋外利用の工夫と根本的な変化を考える

星野リゾートの宿泊施設においても4月5月は厳しい運営を強いられたそうですが、徐々に予約は戻ってきているといいます。これからも緩和と緊縮が続くという制約が考えられる一方、ポジティブにとらえている部分もあるそうです。

石井さん「忍耐続きの中、観光や賑わいづくりに期待されているところは増えてきている。また、今後も求められていく。屋外利用など、今の状況に応じた形ができるのではないか。」

まさにクオルでも、オフィスの外のオープンスペースの使い方の工夫に取り組んでいるところです。目下の対策に知恵をしぼる一方で、栗原はこう指摘します。

栗原「本質的な部分のまちづくりやコミュニティ、賑わいづくりのあり方を、このコロナ禍の中で考えなければいけない。」

オンライン化進展の可能性

新しいあり方を考えるにあたって、大きなトピックのひとつがオンライン化やITのさらなる活用です。

栗原「新しいテーマとして、まちづくりがオンライン化していく好機ととらえている。まちづくりという分野はオンラインからは遅れている産業だったが、今やオンライン化せざるを得ない状況であり、イベントも新しい形を開拓していかなければならない。」

旅行業のオンライン化も考えなければならないが、やり切れていない分野であると語る石井さん。一方で、取り組んでいる工夫もあるようです。

石井さん「ITを使って滞在の時間をよりよくしようというのは考えているテーマで、導入していきたいところ。例えば今も施設の中で「密の見える化」として、温泉や共用部の混雑具合を見えるようにする取り組みを6月からスタートさせた。あとは、予約した後に食事のメニューをアップグレードしたり、アクティビティを予約したり、Web上で滞在中の組み立てをできるようにしようというITの活用は以前からあった。」

地元の魅力の発見と地域のたまり場

石井さんが企画開発に携わり、2020年3月に開業した温泉旅館「星野リゾート 界 長門」。もともとは近隣だけでなく遠方からの集客も想定の上、ご当地の魅力を感じられるように施設を考えていったといいます。
しかし、その中で石井さんにはある驚きがありました。

石井さん「遠くからくる人のために、ご当地の魅力をしっかり用意しておこうと企画に取り組んで来たが、意外と地元の人にもそういった取り組みが新鮮に映っている。そういうところで、地元の方にも来ていただける動機になっている。」

地元の人が訪れるという点で、栗原が山口県を訪れた際に足をのばした「いろり山賊」という、多くの若者が集まる地元では有名なテーマパーク型レストランで、思ったことがあるそうです。

栗原「地域地域で若者が集まれる場所が大事。たまに息抜きしたり遊んだり、羽目を外したりというたまり場みたいなところ。まちづくりを考えるときに、こういうたまり場的なことは優先度高く考えることが大事だと思った。マイクロツーリズムでもそうかもしれないが、地域地域の人たちが反復して行きたくなる場所になることなのかなと思う。」

「界 長門」の外観 (星野リゾート提供)

地元と外部、それぞれの役割とは

では、いかにそのような「たまり場」のような場所を生み出していくのか。

栗原「よそから来た者が(地域に)入っていって企画運営をしていくよりも、地元の人が主体となって運営や継続してやっていくのをモデル化していくことが理想なのだろうなと思う。」

地元の人を巻き込むという点は、よく議論にのぼる大事な部分です。
そう言いながらも、石井さんは長門の経験から次のようなことを感じました。

石井さん「地元主体も大事だけれども、都心との交流や都心の人の活躍も大事というのが私の意見。旅行を域内に閉じてしまうと、結局昔の観光にしかならない。素材は限られるけれども、その中で(コロナ前の自由な移動ができた時代に)一度上がった消費者の(旅行体験に対する)期待値をいかに満たすかということが、マイクロツーリズムの具現化には必要ではないかと思っている。」

外からのきっかけで生まれる魅力

具体的にはどういうことか。石井さんは長門湯本の経緯から説明してくれました。
長門市に誘致されて行った温泉街再生の事業では、星野リゾートの施設開発だけでなく、水辺の整備や演出、イベントの開催、既存施設の改修など、様々な取り組みがされました。

石井さん「温泉街の整備が一巡した際に、振り返って魅力がどこから来るかと考えると、地方の素材に外から来た人がアイデアや技術を持ち込んだことで、整ってきているところがある。」

例えば、水辺を使った川床や照明設置、イベント開催などは、外から来た専門家の知恵とスキルがあってこそだったといいます。他にも、伝統工芸の新しい見せ方や図柄を、外からの目で提案しながら取り入れたという例もあります。
外から来たエネルギーのある人が動き出して、自由なアイデアや発想が具体的に形になる気配が生まれたことで、地元でこだわりをもった動きも現れてきたそうです。

石井さん「きっかけづくりというところで、外の人が担う部分は大きいんじゃないかと思う。素材は中で解決しなければいけないが、いろんな人が地方に関わらず取り組むというところが大事なポイント。」

大胆なデザインが施された伝統和紙は、デザイナーとのコラボレーションで生み出されたアイデア
(星野リゾート提供 )

まちの魅力をプロデュースするスキル

クオルで実施しているエリアマネジメントスクールでは、受講者がそれぞれの住んでいるまちの魅力を分析するという課題を行っています。そういうきっかけで、初めてまちの魅力に向き合うという人もいるそうです。

栗原「住んでいて、毎日その場にいる人が意外と気が付いていないことや、またはよその人が見たときに発見できる機会とかがあったりする。まさにプロデュースの部分だと思うが、そこに関してはある程度技能や経験値を持っている人が入って、素材はその地域にあるものをうまく使うことが大事なのだと思う。」

石井さんはこう応じます。

石井さん「新しさや価値の発見をするには、ちょっとしたノウハウとか経験とかスキルというものがあると、より促進される。」

例えば、普通の人には道路は道路にしか見えないかもしれませんが、道路をイベントなどに活用している経験のある人からすると、そこには可能性が見えてきます。
実際に長門湯本のまちでは道路を使った社会実験が行われ、地元のよさを発見するきっかけになったといいます。

プロジェクトを推進する仕掛け

石井さん「旅行者が体験する温泉街全体をまず作りこんで、その魅力を前提として集客するというのはわれわれにとって初めてだった。」

長門湯本で星野リゾートが取り組んだような、自社の施設にとどまらず、まちとしての魅力を高めていくというアプローチは、まさにエリアマネジメントの発想です。
しかし、スタート当初は分からないことも多く、まずはやってみようというマインドもあったそうです。星野リゾートがポテンシャルと期待感を盛り込んで提案したマスタープランを手がかりに、プロジェクトが始まったといいます。
そこから、長門湯本のプロジェクトは個々の施策を担うデザイン会議と、方向性を決める推進会議の2つの枠組みで進んでいくことになり、星野代表が推進会議の委員を務めました。
そのような仕組みでプロジェクトを動かしていく中で、石井さんはこう感じたといいます。

石井さん「良いメンバーが集まったあとは信頼感が大事。我々が細かいことを言うよりも、気づいたらデザイン会議からこうしたいという話がどんどん出てきて、それもいい内容だった。密にコミュニケーションを図ったし、マスタープランにいろんなことを書き込んでいたので、基本概念は共有できていた。」

このプロセスは通常の宿泊施設の開発より手間と時間のかかるものであった一方、おもしろさもあったそうです。

星野リゾートが提案した温泉街再生のマスタープラン(星野リゾート提供)

魅力とノウハウを結集するチームづくり

石井さんの経験からは、まちづくりの方法として大いに学べるところがありそうです。
本人はその本質はシンプルなものではないか、と語ります。

石井さん「観光やまちづくりにはとんでもないアイデアが組み込まれてるというより、魅力的なまちをつくるためのノウハウや経験はすでに世の中にあるんじゃないかと思っている。それを適材適所でちゃんと入れていくことが大事。旅行はいろいろな付加価値をインテグレーション(統合)していって、それを一つの商品として提供していく側面がある。いろんな魅力やノウハウをいかに集めて、その中でいいチームをつくっていくということなのではないかと思う。」

対談を終えて

マイクロツーリズムというテーマからスタートして、地域の魅力の発掘や具現化の方法とその担い手に関する議論も深まった今回の対談。
ローカルな魅力のプロデュースの方法は、シンプルでありつつも、地域を超えてうまく力を束ねることがカギとなりそうです。そのプロセスに投資して、長期的な効果を生むというビジョンを持つことも重要でしょう。
近場に目が向けられるようになった現在、周りの地域を新しい目で見ることで、眠っている魅力を掘り起こすきっかけが生まれてくるかもしれません。


アフターコロナのまちと賑わいを考える対談シリーズ
Vol.01 「リアルの賑わいはオンラインに移行するのか?」
Vol.02 「オープンソースまちづくりの可能性」
Vol.03 「未来の都市で人々の行動はどう変わるのか」
Vol.04 「ローカルをかきまぜるワーク&ライフ」

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