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高円寺・小杉湯×&tenna|まちの「つながる場」としての変化と可能性【高円寺コミュニティ施設 シリーズvol.03ー後編ー】

 地域に愛され続ける小杉湯の変遷と、三代目代表・平松さんの奮闘をお聞きした「まちの『つながる場』としての変化と可能性」インタビュー前編。後編では「銭湯のような場所」の定義で作った場「小杉湯となり」の仕組みを紐解きます。

“銭湯のような場所”の定義でつくった「小杉湯となり」って?

平松さん
もともと小杉湯の北側に、祖父が建てた風呂なしアパートがあって。祖父には「小杉湯の施設にして」って言われていたから、建て直そうと取り壊しは決めたものの、どうしようか考えていました。ちょうどその時、小杉湯ファンの建築家とつながりができて「銭湯つきアパートという名前をつけて、実験的に一年活用させてもらえませんか?」という提案を受けました。取り壊しまで時間はあったから、彼と一緒に“銭湯のある暮らしを体験してみるプロジェクト”「銭湯ぐらし」を始めてみたんです。

――「銭湯ぐらし」に興味を持った方が、あちこちから集まってきたと聞きました。

平松さん
そう、高円寺で暮らして小杉湯でお風呂に入る。銭湯ぐらしは自分で暮らしをつくれるプロジェクトなんですが、参加者は手に職がある方が多くて。小杉湯で顔見知りになるから、銭湯にまつわるイベントがポコポコ立ち上がっていったんです。

――自発的に人が集まって、企画が立ち上がっていったのですね。

平松さん
銭湯の可能性を事業に展開できるならと設立したのが「株式会社銭湯ぐらし」、その一年かけた体験を企画に落とし込んだ建物が「小杉湯となり」なんです。

――「小杉湯となり」の企画ディレクター・青木さんもお話を聞かせてください

青木優莉(あおきゆり)さん プロフィール
株式会社 銭湯ぐらしのHR・企画ディレクター。大学在学時にDesign Researchを学び、街における「市民参画の仕組みづくり」に関心を持つ。「小杉湯となり」のイベント企画など事業の全般を担当している。
▲小杉湯となりの青木さん

青木さん
新しく高円寺にやってくる人に「わたしたちが体験した暮らしを提案したいよね」から始まったプロジェクトなんですが、拠点が完成してオープンを迎えたのは2020年3月。残念なことに、コロナが爆発的に広がり始めた時期でした。開業したけれど2週間で一時閉店となりました。

――世は緊急事態宣言真っ只中ですね。

青木さん
当初、不特定多数の方の出入りを想定していたけれど、コロナ対策で完全会員制に切り替え、事業計画もすべて見直しました。最近はコロナも落ち着いてきたので、これまで出来なかった小杉湯となりを地域に開く活動もしながら、会員制を続ける予定です。月額22,000円でセカンドハウスを持つ暮らしの提案ですね。

――小杉湯となりの全貌を教えてください。

青木さん
3階建ての建物で、1階はシェアキッチンが使える「まちの台所」、2階は本棚や畳の小上がりのある「まちの書斎」、3階は和室とベランダでくつろげる「まちの個室」があります。銭湯が「まちのお風呂」であるように、「小杉湯となり」をプラットフォームにして、地域に暮らしをどう開いていくか、いつも考えています。

▲小杉湯となりの図解。リーフレットから引用

平松さん
家のお風呂が小杉湯で、キッチンや仕事場が小杉湯となり、自分の借りている部屋が寝室で、高円寺の飲食店が食堂。半径500m以内に拠点があって、皆が思い通りに“らしさ”を発揮できる、自律分散型の家って感じ。今までのすべてを所有するスタイルよりも、たぶんこれからに合っているんじゃないかな。

「場×ヒト」から広がるコミュニケーション

――会員数はどのくらいですか。

青木さん
これまで200名を超える方が関わってくださって、現在は約60名の会員さんが在籍しています。「株式会社銭湯ぐらし」には40名程のスタッフがいるので、常時100名前後が小杉湯となりに出入りしている状態。世代も20代~80代と幅広い。皆さん名前を呼び合って、挨拶を交わすような間柄なんですよ。

――3階建ての敷地に100人も!

青木さん
毎日出入りがあるわけでなく、「やっほ~!」と遊びに来る人も含んで、そのくらいかなと。まちを歩けば道端や商店街でも会うし、駅までの道中で会う機会もたくさんあります。

平松さん
まちで語られる“関係人口”が、場で語られはじめているんです。みんな暮らしの中に僕らの拠点を組み込んでくれているから、僕ら以上に「続いてほしい!」と願ってくれている。

青木さん
私は子育て中なのですが、高円寺で声をかけてくれる方も多いですし、ワンオペで疲れた日に夕食に誘ってくれた方もいました。地域全体で子どもを見てもらえるから安心できますし、みんなで一緒に暮らしている実感があります。

前田さん
オンオフ切り替えることなく、地続きで関係が出来ているんですね。

青木さん
私たちは常に「銭湯にならおう」を合言葉にしていて。銭湯っていつでも行けて、一人で居れて、つながりも感じられるでしょう。だから小杉湯となりも「元気がないといけない場所」にはしたくないんです。元気がなくても、オフでも、すっぴんでもいける。1階をテーブル席にして、2階を畳にしたのも、自分のお気に入りの場所を見つけて、好きにくつろいでほしいからなんです。

▲2階・まちの書斎。小杉湯浴場のように高い窓から光が差しこむ設計に

前田さん
アンテナも同じように、ふらっと入れる雰囲気をつくっていきたいと思っているところです。“飲み物を頼まなきゃ”とか“コワーキングで仕事をしなきゃ”ではなく、気軽に関わってもらえる場所でありたいですね。

――小杉湯となりの企画はどこで、どのように生まれているのでしょうか。

青木さん
やりたいことや、相談ごとを発信できる掲示板を1階に掲げていて、そこがコミュニケーション起点になっています。中には「引っ越してきたので、冷蔵庫譲ってもらえませんか?」というのもありますね(笑)。他にも、一緒にスコーンをつくりませんか、卓球しませんか、などお誘いも多いです。場所を保有している者同士だからこそ、アナログな手法が活きているんだと思います。私たちスタッフは情報が広く行き渡るように、積極的にサポートしたりしていますね。

平松さん
僕らの仕事は、人生に必要な点を打つこと。点が線になり、面になっていくんですよね。小杉湯がないと他の事業は生まれていないし、他の事業がなければ小杉湯も続けられない。趣味でやってるとか、気ままにやってるとか、そんな悠長なものじゃない。生まれた企画はすべて、小杉湯が生存していくための光なんです。

これからの高円寺との関わり方

前田さん
多くのスタッフが関わる場を、どのように運営しているのですか。

青木さん
スタッフはそれぞれ兼業していたり、バックグラウンドが違う。だから顔を合わせて話す時間はお互いの違いをリスペクトしながら議論することを大切にしています。会員さんが喜ぶことを想像しながらも、自分たちのやりたいこと、いいなと思うことをやる。「自分の暮らしを良くしている」っていう実感がないと続けられない。サービスを提供している私たちがつまんなそうにしていたら場所がすたれてしまうと思うので。

前田さん
自分が楽しいか、やりたいかどうか、が前提として入っているから皆さん活気があるんですね。

――高円寺との今後の関わりはどのように考えていますか。

青木さん
小杉湯や小杉湯となりという拠点、働いている40人の仲間や会員さんの存在が、どうやったら地域で価値を持てるかを日々模索しています。まちの小さなお店だけではできないと諦めたことを、私たちの空間を使って叶えられたら面白いですよね。コロナが流行してからの3年間は積極的に行動できなかったので、今後はそんな関わり方も視野に入れていきたいですね。

▲3階・まちの個室のベランダから見た小杉湯の瓦屋根

前田さん
アンテナの利用者さんが小杉湯さんの話をすることもあります。お客さん同士がつながったり、スタッフがつながったり、一緒に高円寺の清掃活動が出来るといいなと思います。

青木さん
ゴミ拾いの後に小杉湯で朝風呂入る、とかもいいかもしれない。

前田さん
いいですね。

平松さん
京都に『ハンケイ500m』というフリーペーパーがあるんですが、その名の通り半径500mで編集部をつくってて。小杉湯×アンテナでも編集部発足を考えたいですね。“地域との関係性を編んでいく”編集部。高円寺に住んでいるカメラマンやライター、デザイナーは手を挙げやすいし、店舗からはきっとOKをもらいやすい。取材で話すと相手を知れるし仲良くなれる。アンテナが掲げる“共助のつながり”も実現できるかもしれないですね。

前田さん
ぜひ、一緒に考えてみたいです!

平松さん
高円寺って歴史もあるし、ずっと賑わいもある。だけど住む人は入れ替わっているし、まちも常に変化を続けていると思うんです。色んな人を受け入れてきた、多様性のある場所なので。だから僕らも、続けるために変わり続けたいですね。

▲小杉湯となりの前に並ぶ平松さん(左)、前田さん(中央)、青木さん(右)

 アンテナのオープンを機に、高円寺のまちで活躍する平松さんと青木さんに話を伺うことができました。地域を守る大先輩の懐は深く、言葉は重みがありました。コミュニケーションには様々なアプローチの方法があり、媒介するものの設計次第で、色づきに特性があらわれるのだと感じました。
アンテナはまだまだはじまったばかり。関わる人々の声に耳を傾けつつ、まちの「つながる場」にも引き続き出掛けていけたらと思います。

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