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コミュニティスペース「みんなの図書館さんかく」から見る、「私設公共」のつくりかた

本棚オーナー制度が全国各地で広がり、各地のコミュニティスペースで賑わいを見せているのをご存じでしょうか?その先駆けとなる仕掛けを行ったのが静岡県焼津市にあるみんなの図書館さんかく。この場所を運営する土肥 潤也(どひ じゅんや)さんを取材し、コミュニティスペースに対する取り組みや仕掛け、ヒントになる部分をお伺いしました。
なお、本記事は、2023年3月24日、書籍「わたしのコミュニティスペースのつくりかた」の刊行記念イベントの様子をまとめ、編集したものです。

【土肥 潤也さん】
みんなの図書館さんかく館長。1995年、静岡県焼津市生まれ。早稲田大学社会科学研究科修士課程修了、修士(社会科学)。2015年に、NPO法人わかもののまちを設立。2020年に、一般社団法人トリナスを共同創業、現在は代表理事。焼津駅前通り商店街をフィールドに、完全民営の私設図書館「みんなの図書館さんかく」を開館。Next Commons Lab 理事、内閣府 若者円卓会議 委員、内閣官房子ども政策の推進に係る有識者会議(こども家庭庁に関する有識者会議)臨時委員などを歴任。

自分たちの欲しい暮らしは自分たちでつくろう。ドイツから得た「私設公共」のヒント

土肥さんは、静岡県焼津市でみんなの図書館さんかく(以下、さんかく)の活動を精力的に行っていますが、スタートは若者の居場所づくりからでした。普段は中高生の社会参加や、地域参加に関わるような取り組みを行っています。

土肥さんが中学生のときの経験から、将来の進路や真面目なことを語れる環境があれば前向きになれるのではないかと思い、それを実現する場づくりをしたいと考えていたそうです。

土肥さん)
大学院のとき、文科省の派遣事業でドイツへ行ったときのこと。日本は拠点型の遊び場が中心ですが、ドイツではプレイバスという移動型遊び場が盛んでした。プレイバスの遊び場が公共空間に広がっていき、遊びの力が街を変えていく光景を目にしたんです。自分たちが普段生活している場所だから、自然とそこに関心が出てくるし、自分たちの街という感覚がだんだん湧き上がってくるんだなという風に感じました。

現在の日本は、人口減少によって空き地とか空き物件がどんどん出てくる時代になってきています。税収も減る、市街地の投資も期待できない、誰か頼みではもう限界が来てると感じたとき、自分たちの生活圏を自分たちで豊かにしていきたい、新しい公共や公共施設をつくってみたいと思うようになり、「私設公共」を切り口に、社会実験としてさんかくを始めました。

名前の由来は、色々な人の参画、街に参画するような拠点になってほしいということから。また、昔から、三人寄れば文殊の知恵ということわざもあるように、この場所に集まった人たちで街の課題解決ができる場所になればという思いもあります。

※後から気づいたそうですが、さんかくの住所が3丁目3の33だったことから、3を意識しているそうです。

人件費なし!勝手にお店が開く仕組みづくり

土肥さん)
さんかくが注目されるきっかけになったのは、本棚オーナー制度です。1つの棚をひと月2,000円で借りて本棚オーナーになってもらい、その棚から自分の本を貸すという仕組みです。現在60名ほどが本棚オーナーとして契約していて、キャンセル待ちが出るくらい人気になっています。「お金を出してまで本を置く人は、きっと面白い人に違いない。だからそんな人たちと繋がってみたい」と本棚オーナーになる方もいます。県外からも要望がありますが、定期的に利用していただける近所の方がよいと思い、今はお断りをしています。

本棚オーナーが増えるごとに黒字化しましたが、人件費は当然にかかります。イベントを行ったり、本棚数を増やすことも検討しましたが、運営者がいかに疲れないかが大事。「人件費を稼ぐのではなく、人件費や負担のかからない運営」に切り替えました。

本棚オーナー制度以外に、チャレンジショップというものがあります。これは自分が挑戦してみたいお店を無料で開くことができる代わりに、さんかくのお店番をするというものです。毎週月曜はイラストレーターの方がハンドメイド雑貨のお店を出してくれたり、火水木はコーヒースタンドがあったり、金曜は電子楽器を作ってる方がいます。

ある会社員の方が夜、空いていない状況に対し、自身でお店番することで夜の営業がスタートすることにもなったこともありました。さんかくは、利用者から費用を負担せずに成立するビジネスモデルなので、月1日しか開館していなくても毎日開館しても、売上は変わりません。

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note(「お店番がしたい!」どんどん参画したくなるまちのちいさな図書館。)より転載

※ちなみに、本棚オーナーに店番する権利があることを伝えているため、開館していないことに責任を感じるオーナーもいるとかいないとか。

場づくりは別れや出会いがつきもの!超属人的で、魅力を尖らせる

土肥さん)
よく、コミュニティスペースを運営する上で、その人がいないと回らないといった属人的な課題が挙がります。例えば、クラウドファンディングで盛り上がったり、テレビでは取り上げられるけど、実際に行ってみたら全然空いていないとか、立ち上げた方がいないとか、色んな課題を感じることがあります。

さんかくは開館して3年しか経っていないですが、たくさんの出会いと別れを繰り返していって、一時期は全く開館しないときもありました。

(本棚やチャレンジショップを運営する)みんなを主人公とした場づくりは良い面もあれば、逆にその人がいなくなると、それなりに困ったことも起こります。ただ、ルールをつくると面白くないし、人の顔が見えないスペースになってしまうこともあるので、好き勝手やる方が魅力的なスペースになっていく、そういう発想で場づくりに取り組んでいます。依存関係ができると、誰かがいなくなると困る。でも、お互いが頑張って参画しているので、最終的には補完しあってなんとかなります。

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note(「お店番がしたい!」どんどん参画したくなるまちのちいさな図書館。)より転載

図書館から広がるコミュニティの輪

土肥さん)
持論として、世の中のほとんどの人は積極的に交流したいと思っていないと思います。異業種交流会とか、意外とそういう交流会で出会った人とはその後は全く繋がらなかったりなどよくあります。

交流拠点という名前が多いのが一般的ですが、交流がつくと自己紹介をする緊張感やアクティブな人の集まりなどのイメージが先行してしまいます。図書館というネーミングがよかったのは、図書館なので多様な人が来てくれるようになったことです。
子育てをしている方や色んな職種の方と出会うことがほとんどなかったので、図書館を開いてから圧倒的に知り合いが増えました。この場所を開いてよかったなと思います。

今回の土肥さんのお話で、図書館という私設公共を通した多様な人と交わる場づくりにおいて、運営していくためにはコミュニティをよくしすぎない、頑張りすぎないといった姿勢にとても好感が持てました。持続可能な組織を運営していくにあたり、マニュアル等を作成しようと考えがちですが、あえて属人性を貫く運営方法が印象的でした。

本棚オーナー制度の取り組みやコミュニティスペースが広がっていく中で、土肥さんの想いや運営の考え方についてもっと知りたい方は、ぜひ土肥さんの書籍を手にとって読んでみてはいかがでしょうか。

『わたしのコミュニティスペースのつくりかた』
https://torinasu.info/posts/book


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