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盛岡市動物公園ZOOMOリニューアル!パークマネジメントで目指す、地域に根ざした新しい形の動物公園とは

ニューヨーク・タイムズ紙「2023年に行くべき52カ所」に選ばれ、話題となっている盛岡市。さまざまな公共施設・公共空間を刷新するプロジェクトでも注目を集めています。

今回は、リニューアルオープンを遂げた盛岡市動物公園ZOOMO(以下、動物公園)を取材に訪れ、パークマネジメント会社が行った、公民連携による再生と運営の工夫をうかがいました。

新しい動物公園の中を散策

動物公園は盛岡駅から車で15分ほどの離れた場所、標高343mの岩山を中心としたレジャー施設が集まるエリア(岩山エリア)にあります。
まずは、新しくなった動物公園の様子を写真でご紹介します。

▲エントランスには、ZOOMOの文字やメッセージが添えられた動物のオブジェが。入場から没入感やストーリー性が感じられます。

▲チケット売り場は元々動物等の展示コーナーだったところを改装。木のぬくもりを感じられる明るい内装に。

▲園内サインも分かりやすく、親しみやすいデザインになりました。山なので園内は高低差がありますが、ハード面ではなくソフト面の工夫がされています。

▲園内の動物に対する見せ方が変わり、動物福祉を大事にしつつ、動物たちを間近で見られるような工夫も。

▲園内を一望できる飲食スペースや森の中にいるような休憩スペースも増設されました。

▲各飼育コーナーにはパネルが設置され、職員さんならではの知識と着眼点を通して動物たちとの出会いを楽しめます。

リニューアルの背景と効果とは?

さて、動物公園自体がオープンしたのは市政100周年記念事業(1988年)でのこと。当初の来場者は24万人だったそうですが、現在は15万人ほどに落ち込んでいます。一方で運営費は上がり、老朽化した施設も、職員自身で修繕を工面することもあったそうです。
老朽化や運営費が限界に近づき、盛岡市だけでは負担しきれないため、新たな付加価値をつくる再生事業を行うため、盛岡市100%出資から、民間51%・盛岡市49%の出資比率にした「株式会社もりおかパークマネジメント」を2019年に設立しました。
財政難、魅力の低下、施設の老朽化、運営の体質など様々な課題があったそうですが、どのように課題を解決されたのか、今回取材に答えていただいたのは株式会社もりおかパークマネジメント企画営業広報の荒井さんです。

(企画営業広報の荒井さん)

――もりおかパークマネジメントの設立背景とリニューアルオープンについて注力された点を教えてください。

荒井さん
設立背景としては、複数回にわたる官民連携導入可能性調査を行った上で、従来の行政の枠組みに捕らわれず、行政の規制を緩和しながら民間企業同士のつながりやフットワークを活かす、PPP(パブリック・プライベート・パートナーシップ※公民連携)が採用されました。
もりおかパークマネジメントの事業の組み立てや戦略を担ったのは、オガールプロジェクト(岩手県紫波町)の岡崎氏です。
岡崎氏は、「単にビジネスプランを刷新するだけでなく、ストーリーづくりや職員のマインドもリニューアルをしないといけない」と言って、最初に職員だけではなく一般の方も参加可能なワークショップを合計3回開催しました。このワークショップを機に、従業員のマインドが少しずつ変化していきました。
また、動物園は一般的に子どもを対象とした事業と見られがちですが、実際の利用者や社会のニーズと乖離があるため、動物園だけでなく違う業態とコラボしたり、岩山エリアとしての価値を高める方針、地域も元気にしていく長期的に再生していく目線で考えていきました。

(実施されたZoo-Zooワークショップのチラシ)

――ワークショップを経て、エリアコンセプトや職員のマインドはどのように変わりましたか?

荒井さん
職員がやりたいアイデアを実現できない風通しの悪さや閉塞感がありましたが、ワークショップを経て職員同士でよく話すようになり、今回長く休み(リニューアル工事にあたっての休園期間)があったことにより、自分たちで1から考える機会になりました。

特に大きかった点は、通常の公共事業だと現場の声が反映されにくいと言われますが、 工事が始まってからも現場の意見が反映できる場面があったことです。
現場の声を問われる中で、”どういう価値を来園者に与えたいのか”、”どうような関係性にしたいのか”など、自身の業務を問い直す機会を得て、動物公園に対する想いを自分たちで言語化していく作業を行いました。例えば、ショップのコンセプトも1から全て考え、ありがちなお土産屋さんからの脱却として、商品を通じて何を受け取ってもらうかコンセプト、商品構成を再考しています。

ーーリニューアルオープン後、一番大きかった反響は何でしょうか。

荒井さん
ポジティブな部分は施設の見せ方が変わったこと。今まで柵や植栽によって景観が悪くなっていたのですが、整ったことで動物が見やすく距離感が近くなりました。また、以前は座るところがなくひたすら歩く施設だったのが、座るところができたり、ゆっくり過ごすことができる場所になりました。

ネガティブな部分としては、チケット売り場の運営とシステムを刷新したことで、スタッフ・来園者ともに対応できない部分がありました。GWで多い日は8千~1万人程度の来場がありましたが、入り口で大渋滞が起こってしまったので、今後は再来園したいと思ってもらえるようにすることが課題です。それ以外にも細かい点ですが、来園者ニーズに合わせて改善を繰り返しています。

ーーそれだけ反響が大きかったということですね。エントランスにあるショップが魅力的で商品バリエーションが広くなり、全く雰囲気が変わりました。それだけでアトラクションのようですが、お客さんの反応はどうですか。

荒井さん
お客様の反応はすごく良く、以前の売上より5 倍ほど変わりました。特に、地元のクラフト作家さんとのコラボ商品は動物園側からの声がけで実現したもので、動物に思い入れのある職員と作家さんと一緒につくることができました。
こういった背景については、再生事業が始まるときに、岡崎氏から(次のように)話がありました。

「動物園は図書館とおなじで、動物自体が直接的にお金を生み出さない。しかし、それを維持するために人件費を含めて一番コストがかかっている。でも、動物園が持つ教育や保全などの役割は地域にとっての1つの価値なので、それをどうやって維持して残していくのか、動物や動物公園の持つ特性を最大限に生かして新たな業態を生み出し、直接的にお金を生み出さない社会的に価値のある事業に投資できるような仕組みを作れるかどうかが持続可能性を考える上で重要である」

直接動物と関わらないグッズや景観、植物を使って新しい価値でニーズを生み出していき、そのお金で動物たちをいい状態で飼い続けていく。それを見に来てくれる人で持続可能な循環を創るなど、これからまたぜんぜん違う業態をつくり、飲食など新しい使われ方をつくっていければいいなと思っています。

(底にヤマネがいるマグカップなど、動物をモチーフにしたグッズがずらりと並ぶ)

ーー会社の形態による変化、ファンとの関わり方の変化を教えてください。

荒井さん
裁量権が広がった分できることも増え、(契約を伴う場合を除いて)プロポーザルなどの時間や手間のかかる手順を踏まずにパブリックマインドを持った民間企業と直接連携できる環境になりました。
例えば休園期間中の施設見学ツアー。完成前、市長にもまだ見せていない工事途中の施設を一般市民に見せるのは困難なのですが、株式会社の自主事業という形で実現できました。
休園期間もSNSで写真を見てもらうだけではなく、現場に実際に足を運んでくれるファンの方にも、リニューアルの過程に関わってもらうことによって愛着を感じて欲しいし、関わった場所にもう一回来てくれるような関係性のつくり方などを行っています。

(以前から)会費制で会報を送付したり限定イベントに参加できる集まりがありましたが、サービス提供型になりがちだったため、主体的な方を増やそうと新たにサポーター制度とボランティア制度を立ち上げました。
また、行政の仕組みだけではコアなファン以外を引き込めないため、単純に応援したい方たちとの新しい関係性をつくるために、Amazonのウィッシュリストやクラウドファンディングなどで新しい寄付の形を探りました。

ーー新しいボランティア制度には、どんな方がいらっしゃるのでしょうか。

荒井さん
どんなことができるかを話し合ったり、その方のスキルやアイデアを汲み取りつつ、実現できる形を一緒に考えています。休園期間中に関わり方を見直し、養成講座3回全部に参加できることを条件に作り替えました。ハードルがあがった分人数は減りましたが、主体的に活動してくれる方が残り、現在20名ほどのボランティアがいます。(見直し前は100名程度)
家族で参加、元学校の先生、読み聞かせを趣味でやってる方など、幅広い方がメンバーになっています。連絡手段についても、一方的に連絡することをやめ、今はLINEオープンチャットを利用してやりとりをしています。
その方々からは、「ふらっときた時にガイドをしたい方」「園内の自然観察をやりたい方」、「動物を題材とした絵本を読み聞かせをしたい方」など、様々なニーズやアイデアがあるので、そういった組み合わせや繋がりを調整し、発信しながらコミュニティを増やしていきたいと思います。

ーー休園期間中、ファンとの関わりを作ってきたと思いますが、普段、ファンづくりを行う上で、情報発信などを心がけていることとは。

荒井さん
休園期間中にどうやってファンとの繋がりをつくるかを考え、会社組織が変わった時に情報発信の仕方を大きく変えました。それまでは、動物の病気や死などの発信は控え、ポジティブな発信のみを行ってきましたが、組織が変わるのを機に、動物の体調不良や治療、死も含めて包み隠さず発信するようになったことで、様々な反動もありました。

例えば、運営が変わったから動物の死亡や事故が増えたなどの意見を言われることもありました。動物園はたくさんの生き物が飼育しているため、生まれた数だけ死ぬこともあります。ただその生死だけを報告するのではなく、個体の生き方から最後の様子までを丁寧に説明していくことを行うようにしました。

当初は反対意見も色々と多かったのですが、全部情報を出しているからこそ、動物やファンの方へ真摯に向き合うスタンスに応援・共感してくれる方が増えファンの質感が変化したと感じます。3年間軸を定めて折れずにやってきたからの関係性だと考えています。

ーー今後の展開は事業者の参入や岩山エリアの魅力づくりを行っていくと思いますが、どういうことを考えているのでしょうか。

荒井さん
今回公共投資が終了し、次は民間投資を呼び込むのが次のフェーズになっています。これだけ集客できる場になったことを見せることで、動物公園で事業をやりたい方を出てくると思います。単純にお金稼ぎができるということではなく、動物公園のコンセプトや性質に共感してくれる方々と様々な業態展開での企画を一緒にチャレンジしていくと思います。
盛岡バスセンターがリニューアルしたことで、まちの人の流れが変わってきているため、一日の過ごし方が変わっていくでしょう。今までは特別な場所でしたが、日常的に使える場所にしたいです。ただ、岩山エリア自体が(盛岡市中心部から)遠いので、動物園だけに行く理由以外に新しい使い方ができるような仕組みが必要と感じています。

ーー最後に、今後の展開などメッセージをお願いします。

新たな人たちに知ってもらいたく、現在たくさんの取材依頼がありますが、できる限り取材対応をしています。
バラエティ番組的な取り上げ方、ドキュメンタリー的な取り上げ方どちらのアプローチも必要ですが、動物公園の本質的な役割は担保したいので、キャッチーな内容に偏り過ぎず、様々な視点、質感の媒体で取り上げてもらうことを大切にしています。

リニューアル後、すごくよかったと言う方、思ってたほどじゃなかったと言う方もいますが、今が完成ではありません。ずっと成長し続けて変わっていくことが大事だと思っていますし、更新されていく経過や変化を何度も足を運んでいただき楽しんで欲しいです。人によっては、刺さるポイントがいっぱいあるので、自分の楽しみ方を探してもらえると嬉しいです。

~~取材を終えて~~
リニューアルオープンに先立ってつけられたZOOMO(ズーモ)という愛称には、4つの由来があるといいます。
1つ目はZOO MORIOKAという盛岡の地域に根ざした動物園で在りたいという思い。
2つ目は「ずっと、もっと(愛される動物公園で在りたい)」。
3つ目は、岩手で古くから伝わる語り部さんの有名な語り出しとして利用される「~ずもな」。これには、新たな組織チームで物語を語り継ぐための語り部という意味が込められています。
そして4つ目の由来は、これから動物公園はどこの動物園も行っていない事業を展開し、新たな動物園の形、過ごし方を提案するという「ZOOM ON」です。

今回荒井さんのお話を聞いて、動物公園と岩山エリアがどのように変わっていくのか、その変化や過程がどのように方々を巻き込んでいくのかとても楽しみになりました。
動物公園を訪れることがあれば、語り部の一員となったような気持ちで、ぜひこだわりが詰まった点などをSNS投稿してみたり、身近な方に伝えてみたり、動物公園の楽しみを広げていってみてはいかがでしょうか。

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