エリアマネジメントやまちづくり活動の中で、地域住民と接する機会やコミュニティ形成を目的とした活動は年々増えています。一方でコミュニティ運営の現場にはさまざまな工夫や挑戦があります。
今回はコミュニティ運営を行っている QUOL、HITOTOWA、Polarisの三社にお声がけをし、コミュニティ運営のホンネやヒントを聞く座談会を企画しました。本記事は座談会の様子を一部抜粋・編集して紹介します。
座談会は、2024年1月にオープンした「アンドエス(Polaris運営)」で行いました。
会場紹介:アンドエス(詳細URL) 石神井公園団地から分譲マンションへの建て替えプロジェクトで生まれたスペースで、Polarisがマンションゲストサロン横にあるShakuji-ii BASEの運営をしていた経緯や団地のコミュニティや想いを引き継ぐため、マンション1階にコミュニティスペース「アンドエス」をオープン。居住者だけでなく、人と人がつながる交流・共有する場を提供しており、ワークスペース、シェア型本棚、ドリップコーヒーや冷凍パンのサービスが楽しめる。 |
QUOL、HITOTOWA、Polarisの紹介
今回の座談会に集まったのは、それぞれ異なるスタンスでコミュニティ運営に関わる3つの会社の担当者の皆さん。まずは各社の特徴や、担当者が関わるプロジェクトの概要を見てみましょう。
QUOLの会社紹介
株式会社QUOL(2005年7月8日設立)/Webサイト ビジョン:まちづくりで暮らしを豊かに~ひとりひとりが自分らしくいきいき暮らせるまちをつくる~ エリアマネジメントを専門とする会社で、ディベロッパー目線で事業スキームの提案し、地域の魅力発掘や組織設立を行うコンサルティングから、地域施設やコミュニティ運営、イベント企画等を手掛けるエリマネ活動運営を行う。また、独自のノウハウを学べるエリマネスクールを運営している。 |
QUOL・藤井さん(詳細プロフィール)
「カフェを通した街づくり」がコンセプトの会社で8年間勤務。カフェの経験を活かしながら専門的な知識を身に着けていきたい、深く知りたいという思いから、株式会社QUOLに入社
主な担当プロジェクト紹介:高円寺クロスオーバー・&tenna(アンテナ)(詳細URL)
変電所跡地を利活用した賃貸マンション「高円寺クロスオーバー」のコミュニティ形成や、1階の&tennaの店舗運営を行う。多様な方々の交流や新たなビジネスの促進、マンション住民も参加する食事会や清掃活動などのコミュニティ活動を手がける。「ローカル繋がる中継基地」をコンセプトに、ローカルイベントや都市と地方をつなぐ活動を行う。
HITOTOWAの会社紹介
株式会社 HITOTOWA(2010年12月24日設立)/Webサイト ビジョン:ともに助け合えるまちをつくる、人が幸せな会社。 都市や暮らしの課題を人々のつながりによって解決するネイバーフッドデザイン事業を中心に掲げている。ネイバーフッドデザインメソッドの考え方を元に未来像や目標を設定し、その地域に適した仕組みづくりを行っている。阪神淡路大震災では人命救助の多くが近隣住民によるものであり、共助の重要性が示されたように、ネイバーフッドデザインによって、防災減災の促進やまちへの貢献や活性化に取り組んでいる。 |
HITOTOWA・佐藤さん(詳細プロフィール)
学生時代に参加したNPO法人にて地域活動を行い、大学卒業後は住宅会社に勤務。学生時代の経験から地域そのものを魅力的にしていく仕事がしたいと思い、HITOTOWAに入社。
主な担当プロジェクト:洋光台団地・まちまど(詳細URL)
まちまどは、50年以上の歴史を持つ横浜にある洋光台団地再生プロジェクトのひとつであり、洋光台団地の活性化と子どもの流出防止、地域の担い手を育てることを目指している。地域の窓口でありながら人とのつながりを重視し、地域内での情報発信やイベントを行う。地域住民が自ら活動に参加し、一緒に企画や実施を行うことを支援している。
Polarisの会社紹介
非営利型株式会社Polaris(2012年2月27日設立)/Webサイト ビジョン:「心地よく暮らし、心地よくはたらくことが選択できる社会へ」 育児期の女性の働きにくさの解消を出発点として、経営メンバー5人以外は業務委託で柔軟に働ける仕組みで活動する会社。主要な業務カテゴリーはアウトソーシング、地域情報提供サービス、ミドルシニアの就労支援、サードプレイス型コミュニティ運営、学びと探索。 |
Polaris・野澤さん(詳細プロフィール)
美大卒業後に就職した会社を結婚出産で退社。フリーランスと非正規雇用の二足のわらじ的な働き方を30代前半まで行い、30代半ばから、プロボノで関わっていた非営利型株式会社Polarisの経営メンバーに参画。
主な担当プロジェクト:経営メンバーとして組織づくりや人材育成、業務ディレクションを行いつつ、コミュニティ形成および運営を担当(石神井公園団地建て替え、シェアオフィスの拠点運営等)。
組織の場づくりを応用したコミュニティ形成・運営事業に取り組む。全ての運営においてチーム(事務局とディレクター、3~5名のスタッフ)で業務を行う。
「ホントのところ」クロストーク
各社それぞれの特徴やプロジェクトがあるなかで、いよいよ実際にどうコミュニティ運営に取り組んでいるか「ホントのところ」の意見交換です。
コミュニティ運営を行うにあたって、参加者だけでなくプロジェクトのクライアントや地域関係者、会社・運営チームなど、さまざまな主体が関わっています。それぞれとどのように向き合っていくのかは、コミュニティ運営の重要なポイントの一部です。各社のリアルな工夫について、トークが盛り上がりました。
Polarisが取り組む関係の醸成とHITOTOWAが作る関わりしろ
(進行)
会社としてコミュニティ運営に携わる際に、クライアントから委託を受けるケースが多いと思います。クライアントとの目線合わせについてはどのように考えていますか?
Polaris野澤
担当者だけでなくクライアントの社風によるものもあるので、一緒に付き合いながら関係性ができるところと、最初の提案から実働に入るまでに関係性ができるところと色々あります。私の仕事は最終的に他のチームメンバーに引き継がれることを前提にしているので、クライアントとはフラットな信頼関係を築くため、コミュニケーションの仕方に気をつけています。
(進行)
コミュニティ施設などの現場スタッフが業務を受け取る際の目線合わせも必要と思いますが、現場に業務を移行するタイミングになってきてスタッフにチームに入ってもらい、野澤さんは徐々に離れていく形をとっているのでしょうか。また、どのくらいかけて現場に主導権を移行するか期間も決まっていますか?
Polaris野澤
初動フェーズでやることは決まっているので、そこはズルズルしないようにしています。
Polarisの場合は人を中心に考えるため、その方の個性によっては渡す期間を一概に決めることが難しく、受け止めきれなさそうだったら、受ける体制を2人にするとか、チームバランスを考えながら渡していくようにしています。ただし予算の関係で体制を増やすことが難しい場面もあります。
HITOTOWA佐藤
HITOTOWAは2~3人のチームを組んで一緒にプロジェクトを進めています。クライアントの方々が見守るだけの状態になってしまわないように、できるだけ同じ目線で語り合えるよう、活動に関わってもらう方法を模索しています。クライアントの担当者は変わることも多いので持続的に関係性を維持するにはどうしたら良いか?と考えています。
Polaris野澤
クライアント側がコミュニティ事業と思わず依頼されても、蓋をあけてみるとコミュニティ形成事業だったということがあります。コミュニティの認識がないクライアントも多いため、”コミュニティとは何か”のすり合わせから始まることがあります。
地域のキーマンと場づくりに取り組むQUOL
QUOL藤井
地域をよくしたいと思っている方など、仲間探しやキーマン探しなどにチャレンジしています。自分たちだけで企画をし続けることも難しく、地域の中で”何かやってみたい人”を集めることが大事だと思っていますが、やりたい方がいない場合、どういう風に人を集めていくか課題感を感じています。
Polaris野澤
熱量が高い人や自分たちの方からグイグイくる人がいた場合はどういう対応していますか?
QUOL藤井
一対一ではなくその方を中心に複数人で進めつつ、熱量や目線を合わせていくようにしています。みんなでやっていくことで熱量についていく人もいれば、落ち着いてくるようになることもあります。
様々な役割分担の方法
Polaris野澤
皆さんの中で担当は決まっていますか?自分の場合は苦手な部分は他の人に任せるなどもしているので、チームで役割分担をしているのかを知りたいです。
HITOTOWA佐藤
代表の荒やフロール元住吉担当の田中に関係することなので、こちらは田中から説明いたします。
HITOTOWA田中(詳細プロフィール)
フロール元住吉という、賃貸マンションの守人(もりびと)という管理人と管理窓口を担いつつ、コミュニティスペースやカフェを運営しているプロジェクトがあります。主に私が担当してきましたが、最近はカフェスタッフも交えた編成を組んで守人をチーム化しています。クライアントとの折衝については、現場目線で語りすぎないように客観的な目線で話せる代表の荒や佐藤に出てもらうことがあり、バランスをとるようにしています。
Polaris野澤
PolarisのPJでも運営側の担当者が地域の顔になることがあります。関係性があるなかで、言いづらいことは担当を変えて私が伝えるなど、地域やコミュニティの継続的な関係性を大事にした、チーム運営を心がけています。
QUOL藤井
社内でチームの役割分担をすることはありますが、地域の顔をクライアントが担うなどプロジェクト全体で役割分担を行うケースもあります。
現地採用を絡めたチームづくり
(進行)
担当者のキャラクターはそれぞれ異なるかと思いますが、どのようにチームを組み、メンバーを集めているのか伺いたいです。
HITOTOWA佐藤
強みと弱みを担い合えるようなメンバーのバランスで配置するようにしています。現場のチームでは、地域にガンガン出ていくような人ばかりだとバックオフィスがうまく回らない(逆もしかり)ので、その辺りのバランスを考えています。
HITOTOWA田中
元住吉では現地で数名採用しています。スキルのバランス、業務形態、働く理由、関心など、入ったきっかけがバラバラですが、共通点を見つけるようにしているので、そこが繋がっていれば多少凸凹していても大丈夫かなと思います。
Polaris野澤
採用した現地スタッフ側でチームを作れる仕組み用意しています。面談はディレクターを2人体制にして、たとえばスタッフがうまくいかなくなった時などでも他の担当者がどうやって採用したかを振り返れるようにし、みんなで議論できるように履歴を残すようにしています。また、研修時にはプロジェクトごとのクレドの読み合わせをすることで、前提をそろえつつ、個性を活かしたその人らしい仕事の仕方ができるように配慮しています。
手間はかかりますが、前提を揃えるところをかなり丁寧に研修しています。今後の採用や、何か起きた時の対処を考えると、ディレクターが途中で変わっても持続可能な状態をつくるような、前段階でリスクを潰すためにかなり手をかけた採用をしています。
チーム内での温度差にどう取り組む?
HITOTOWA佐藤
業務委託が250人もいる中で、中心にいる方と外側にいる方と、意識の違いがあるように思いますが、採用時である程度意識を揃えているのでしょうか。
Polaris野澤
業務に関しては目線を合わせられますが、組織レベルの規模になるとどうしても関わりが薄い人が出てきてしまいます。仕組みの中にビジョン・ミッションを組み込んでいるので、仕組みが信頼を支えてくれている状態になっています。業務自体がしっかり遂行できていれば、組織で働く人の意識に差異があっても良いし、むしろ働く人の暮らしの豊かさに少しでもPolarisが貢献できれば良いなと思っています。
250人まで増やす意識はなかったのですが、案件が増えたら採用をしているので、気づいたら増えているような形です。辞めた人で、新しい案件が増えたことで戻ってくる人もいます。
HITOTOWA佐藤
離れたり、戻って来れたりするのはいいですね
Polaris野澤
そうですね、色々な事情で離れても、同窓会みたいに帰ってくることもあって楽しいですよ。
座談会を終えて
コミュニティ運営において様々な切り口や側面があり、一言にコミュニティ運営といっても多岐にわたる課題やポイントがあることが分かりました。業種・業態が似たもの同士の会社でも、仕組み化をしている部分もあれば手探りをしながら試行錯誤する部分もあり、重点を置くポイントや手法も、それぞれ異なっていました。改めてコミュニティ運営の取り組み方の多様さ、難しさ、やりがいや面白みに触れることができたと思います。今後も機会があれば、コミュニティ運営に関するテーマを取り扱ってみたいと思います。