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「未来の都市で人々の行動はどう変わるのか」アフターコロナのまちと賑わいを考える対談シリーズvol.03

こんにちは、エリマネこ編集部の田村です。
アフターコロナ時代の「まちづくり4.0」を、先進的な取り組みから探っていく「アフターコロナのまちと賑わいを考える対談シリーズ」第3弾は、Mobility as a Service (通称MaaS/マース)のプラットフォーム開発とコンサルティングを手掛けるMaaS Tech Japan代表取締役CEOの日高洋祐さんをお呼びしました。

MaaSとは、多様なモビリティを「1つのサービス」として統合し、ユーザーが自由にアクセスし需要に応じて選択できるようにするというコンセプトです。(MaaS Tech Japan WEBサイトより引用 https://www.maas.co.jp/business/what-is-maas/
「100年に一度」ともいわれるほど技術、ビジネス、そして生活に大きな革新をもたらしうるものとして注目されるMaaS。日高さんがこれまで発表された『MaaS モビリティ革命の先にある全産業のゲームチェンジ』は既にこの分野で読むべき教科書的存在となっており、近著『Beyond MaaS 日本から始まる新モビリティ革命―移動と都市の未来―』では変化の波がモビリティ分野の枠を超えて押し寄せている実情が示されています。
MaaSによる変化は交通だけにとどまらず、都市計画やまちづくりの分野にも及んできていますが、まちづくり側からはMaaSの活用などがまだあまりキャッチアップできていない領域かもしれません。また、その変化がコロナショックによって加速していくのかも気になるところです。

テクノロジーの進化と普及の先に、まちでの生活や賑わいづくりはどうなるのか。
MaaS第一人者の日高さんをお相手に、賑わいデザイナーとしてまちづくりに関わってきたクオル代表の栗原知己が、その問いに迫っていきました。(進行:エリマネこ編集部・田村康一郎)

ユーザーとまちに働きかけるMaaSプラットフォーム

MaaSについて端的にいうと、モビリティのデジタル化によってデータを統合していくことだそうです。そのプラットフォームをつくることがポイントですが、そこには2つの側面があるといいます。

日高さん「アプリケーションでデータをユーザーに届ける面もあるが、一方で、デジタル化によってユーザーとモビリティのデータを都市にフィードバックしていくことが、まちづくりに関してはイメージしやすいところ。」

ユーザーの行動変容だけでなく、まちでの活動や立地の判断に役立てられることが、MaaS Tech Japanが目指すプラットフォームの力だということです。
例えば、人の流れが可視化されることで、大型イベントに対してモビリティサービスやイベント運営でどう対応したらいいかが、分かるようになっているといいます。

広がるMaaSの連携

2017年ごろから、データでまちに影響を与えるという動きが加速し、世界中で様々なプレイヤーが登場しているそうです。
日高さんはMaaSのまちづくりへの展開についてこう語ります。

日高さん「これまでのまちづくりの文脈に沿いながらも、もっとダイナミックにリアルタイムに何かができたり、ユーザーとの接点が一元的に持てるようになることで、できることが変わる。」

「MaaSだけでできることは限られているが、いろんなものとつながることで、問題解決だったりこれまでできなかったことができたりして、利便性が提供できる。」

例えば、環境負荷低減のために、公共交通の利用を促進する施策をサポートし、モニタリングができる効果もあるといいます。
また、広範囲の対象に施策を打つのではなく、エリアや属性に応じて施策を打つという生かし方もできるそうです。

MaaS Tech Japanが開発・提供するプラットフォームの全体像 (出所:MaaS Tech Japan)

エリアマネジメントにおけるMaaS活用の可能性

地域価値の向上や課題解決に取り組むエリアマネジメントの分野においても、パーソナルモビリティとの連携などの事例は現れています。
その他にも、クオル栗原はエリマネへのMaaS展開の可能性を次のように捉えています。

栗原「災害時の帰宅困難者などが都市の課題。官民協働で、一時避難場所の確保や食料備蓄、避難訓練の実施などは行われている。トラフィックが異常になるときにMaaS側でコントロールできるようになると、準備しているまちの側でも対応策が変わってくる。様々な形で災害に対応するというサービスが見えてくる。」

この点に関して、MaaSの枠にとどまらず、リアルタイム性がポイントになると日高さんはいいます。

日高さん「これから重要になるのはつくる時ではなくて、つくってからどう変えていくか。柔軟な交通での対応と帰宅困難者の数、使えるまちのキャパシティなどがリアルタイムで調整できると、強靭でインテリジェントな施策を考えられる。」

これができると、災害時だけでなくイベントの際にも交通の調整が可能で、イベント運営者としても密な状態を避けながら大きな人数を相手にすることができるのではないかと語ります。

オンライン化がリアルなまちと結びつくのか

デベロッパーの仕事は2010年ごろから、ハードをつくるところからソフト型に移行してきたと栗原はいいます。つくった後のサービスや管理の品質が価値につながるという認識が広まってきています。賑わいづくりや住民・ワーカー交流などをしかけて、ブランディングを行うということもなされてきました。
しかし、コロナショックによってリアルな交流が難しさに直面している中、栗原にはこのような思いがあります。

栗原「イベントの賑わいは今後も必要。人間の楽しみとしてコミュニティとの関わりは大事ということは変わらない。なくなることはないが、今は感染を避けるためにオンライン化で代替している状況にある。オンラインのイベントとリアルの空間をどうつなぐかという、コーディネーター役をこれから担っていくことを考えている。」

オンライン化の現状と人の移動について、日高さんは興味深い研究を紹介してくれました。
電話が普及した時期には人が移動しなくなるのではないかという議論があったそうです。そこで通話の量と移動の量を比べてみると、通話が増えると移動も増えるという関係が明らかになりました。

日高さん「オンラインでつながっているところと、リアルな場所が連動している。電話が出たときと同じように、オンライン化が進んだといっても、ポジティブにとらえられる。リアルとバーチャルは対立する面だけでなく、連動性もある。まちやコミュニティのつくり方でもできることが増えると思う。」

ローカルな個性と移動の多様性

栗原も、リアルな地域での活動について、ポジティブな見通しを語ります。

栗原「まちづくりがオンライン化していくことは避けられないし、せざるを得ない。もうひとつはローカリズムが促進する。地元で我慢しないといけないとなった時に、課題が見えてきたり、気が付かなかった魅力や個性も発掘できる。すなわち、地元にいる人たちがより興味関心を持ち、地元をよくしていこうという活動が促進されることになっていくだろう。」

そうなると、賑わいが消えることはないし、移動もまた増えていくのでは、と考えられます。

日高さん「移動がなぜ発生するかというと、場所の性質が違うから。仮に場所がすべて同じになったら移動はしない。移動しなくてもいいような、コンパクトに生活が満たされる均質な話もあれば、ダイナミックにまちの特徴や個性をはっきり出したまちづくりの方向もある。オンラインでいろいろできるようになった分、リアルなまちは個性を出せるといいのだと思う。」

移動の観点から見ても、まちの個性は重要なポイントのようです。

鉄道沿線価値を高めるサービス連携

クオルのクライアントとして、デベロッパーのような事業を行う鉄道会社も増えています。ターミナル駅をはじめとしたエリアの開発によって沿線価値を高め、鉄道乗降客数を増やすという積極的な動きも見られます。
その流れが続く中で、MaaSは沿線価値の向上にどのような役割を果たすのでしょうか。
日高さんによると、自社の鉄道にとどまらない二次交通や飲食店など異業種とのサービス連携の重要度が増していくといいます。

日高さん「駅から降りた後、徒歩しか手段がないのと、そこからタクシーやバスとうまく連携しているかどうかで、大きく変わってくる。コロナ以前からあった話だが、そこがこれからどんどん進んでいく。」

交通事業者のサービス連携は都市部だけでなく、地方観光の可能性を広げる上でも、まだまだポテンシャルがありそうです。

左上から時計回りにMC田村、クオル栗原、MaaS Tech Japan日高さん、グラフィックレコーディング

データが補完するユーザー主体のまちづくり

近年、巨大企業によるスマートシティ開発が話題にのぼることも増えてきました。MaaSもその一要素として取り上げられる中で、これからの都市開発はどのように進んでいくのでしょうか。

日高さん「まずデジタル化から始めて、データをリアルな場に向けてアクションするというのは、スマートシティもMaaSも同じ。人の流動がまち全体でデータとして分かると、計画が立てやすくなる。ユーザーの行動変化や価値観を踏まえつつ、定量的なデータで強く補完することができる。データに定性的なものを組み合わせて、まちづくりが進んでいく。」

「これまでもユーザー主体ということは言われていたが、プランニングするときにはなかなか人の顔が見えない。つくったあとの反応や増減を取りやすく、数が少ない意見もコストをかけずに拾えるのはデジタルのよいところ。ユーザーの声を反映しやすくなるし、日ごろからデータを取れる。」

全てがデータで判断されるのではなく、人の感情をうまく組み込んでいける可能性があるようです。

オンラインゲームから考えるまちづくりのヒント

まちづくりの現場でのデータ活用には、これから大いに進化できる余地がありそうです。

栗原「アンケートで賑わいやイベントの評価は必ず行っているが、定性的にならざるを得ない。交通手段についての設問もあるが、次に応用できる仕組みがない中で、MaaSとの連携ができれば、イベントの充実につなげられるという期待も思い描けた。」

イベントとデータの関係について、オンラインゲームが参考になると日高さんはいいます。

日高さん「ゲーム内でイベントを開催すると、どんな人が反応するのかというデータが蓄積されていく。いつ誰をターゲットにするのか、常にデータを取ることができる。オンラインゲームのコンテンツのつくり方の知見は、まちをつくってからどう改善していくかという話にも相当参考になる。」

コロナショックで見えた動きと変わらないもの

コロナショックによって、デジタル化によって最適化を図るという、MaaSでやることの根幹のロジックは変わらないそうです。
それを応用して、混雑を平準化して密を避けるということが、データのプラットフォームを介してできるといいます。
具体的なモビリティサービスの動きとして、例えばオフィスビルに配車されていたキッチンカーが集合住宅へと配車されるようになったという変化がありました。ここで日高さんが注目したポイントがあります。

日高さん「配車先はどこでもいいというわけではなく、一定程度の集積性がないと利益が担保できない。どこかでフィジカルな人がいる場所は必要になるし、ここに来ればできたてのおいしいものが食べられるという状態が、バラバラとまばらになるということができる場所とできない場所がある。」

空間の密度が下がる開疎化は進みつつも、人が集まって賑わっているような状態は、事業としても場所の価値としてもあるのではないかということを、日高さんは考えているところだそうです。

リアルイベント進化の可能性

イベントの変化に直面して、栗原にはこのような気づきがありました。

栗原「リアルな賑わいの代替を今まで考えてこなかったが、実際にやって、(まだできることが)あるなと感じている。オンラインで人が来て満足度を感じるかという疑問があったが、やってみると問題はなかった。リアルなイベントができるようになってもオンラインイベントは相当残ると考えられるので、リアルとオンラインをかけ合わせることで、新しいまちづくりが編み出されつつあるのではないか。」

対談を進めていく中で、交通側でイベントへの動線をうまくつくったり、データをまちに生かしたりする点にも、大きな期待が見えたようです。
日高さんもそのイメージを語ります。

日高さん「オンラインゲームの話でもあったように、うまくプレイヤーのレベルを分けた設計にしないと、すぐ1か所に集中が起きてしまう。リアルなイベントでも例えば大人と子供の動線を分けるなど、より場所をうまく使えるようになるというアプローチが、MaaSの方からできると思う。」

これから、よいまちをつくっていくために

これまで自動車と道路の関係に重きが置かれてきたことに対して、これから公共交通もあわせて都市全体で何かをしようとしたときに、それが成り立つための条件があると日高さんはいいます。

日高さん「ITの人たちがデータだけ集めればできるかといえば、そうではない。都市工学的なエンジニアリングもあるし、エモーショナルな面でのまちづくりで、人が楽しんで快適に思ってくれないと、そのまち自体の魅力もなくなってくる。デジタルだけじゃだめだし、逆にデザインやまちづくりの人たちだけでもだめ。日本の中で成功事例がつくれるといいんだろうなと思う。」

「MaaSの効率化は比較的メリットが出しやすい。それをやりながら、人を笑顔にするイベントのところにMaaSが使われるとか、今まで会えなかったおじいちゃんおばあちゃんのところに行き来しやすくするとか、そういったところをMaaSおよびMaaSのスキームを使って実現できるといい。」

グラフィックレコード by 中尾 仁士さん

対談を終えて

あるスマートシティの推進者が「都市計画はITを知らなさすぎる。ITは都市計画を知らなさすぎる」ということを言っていたそうです。
今回の対談をする中で、エリアマネジメントやまちづくりとMaaSそれぞれの分野の異なる見方が分かった一方、両者が連携することで、これからよりよいまちをつくっていく可能性のイメージも広がったのではないかと思います。
MaaSのような技術とプラットフォームの進化を追いつつ、まちづくりとの接点に注目していくとおもしろいのではないでしょうか!


アフターコロナのまちと賑わいを考える対談シリーズ
Vol.01 「リアルの賑わいはオンラインに移行するのか?」
Vol.02 「オープンソースまちづくりの可能性」

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