エリマネこ

まちを、エリアを楽しくするお役立ちメディア

高円寺・小杉湯×&tenna|まちの「つながる場」としての変化と可能性【高円寺コミュニティ施設 シリーズvol.03ー前編ー】

エリマネこでも連載してきた高円寺のコミュニティ施設は今年1月6日、「&tenna(アンテナ)」という名でオープンを迎えました。コワーキングスペース、カフェ&キッチン、レンタルスペースが一体となった複合施設で、「ローカルつながる中継基地」を目指しています。

アンテナ開業からおよそ3ヶ月、厚手の上着も役目を終え、やわらかな陽射しが差し込む4月上旬。ローカルとのつながりを広めるには地域で根付くにはその土地の大先輩にアドバイスをいただくのが一番…!ということで、アンテナのスタッフが、同じ高円寺の地で90年(!)に渡って銭湯を営む「小杉湯」の代表・平松佑介さんにお話を伺いました。

▲アンテナから歩いて6分、小杉湯へ
前田大志(まえだ たいし)さん
株式会社クオル社員。高円寺の“ローカルつながる中継基地”アンテナのスタッフ。

平松佑介(ひらまつ ゆうすけ)さん
東京都杉並区高円寺にある老舗銭湯・小杉湯の三代目代表。銭湯を再定義したプロジェクトやコミュニケーション設計など、小杉湯を軸に様々な事業を仕掛け、展開している。
▲すみずみまで掃除が行き届いた小杉湯の浴場

挨拶を交わしたのは営業前の小杉湯の脱衣所。天窓から光がそそぐ浴場には富士の銭湯絵が悠然とそびえ、ピカピカの浴槽にはたっぷりと湯が張られています。長椅子に並んで腰かけて、「小杉湯」流の対談がはじまりました。

▲小杉湯で対談をする平松さん(右)と前田さん(左)

地域の大先輩、小杉湯にお邪魔します

――まずは自己紹介と、各拠点の運営について教えてください。

前田さん
私たちアンテナは今年の1月にオープンした複合施設です。コンセプトは“ローカルつながる中継基地”。カフェやコワーキングスペース運営、イベントを企画していて、近所の方が来てくださっています。まだ走りだしたばかりですが、次第に認知され、通われる方も増えてきた印象です。

平松さん
小杉湯は昭和8年7月21日に開業した銭湯です。祖父が創業者で、僕は三代目になります。36歳の時に家業を継ごうと決めて、2017年に法人化、2019年に父親から代表を譲り受けました。店舗運営は弟に任せていて、僕が小杉湯の事業全般をとりまとめています。

――2017年に小杉湯を「法人化」したとのことですが、これはなぜでしょうか。

平松さん
端的に言うと「小杉湯を続けていくため」ですね。小杉湯は今年で90年になるのですが、昭和は家に風呂がない世帯も多かった時代。関東大震災や戦後の復興など、まちの公衆衛生を民間の銭湯が支えていました。都内だけでも2,687件の銭湯があったんですよ。

前田さん
2,687件!地図に落とすと相当な数ですね。

平松さん
いまのコンビニのような感覚で銭湯がある感じですね。この小杉湯も、もともと祖父が銭湯オーナーから買い取ったもの。杉並区で4件の銭湯を所有していた地主・小山さんの銭湯だったから「小杉湯」なんです。

▲重厚感あふれる小杉湯の外観。子どもの日に向け、掲揚されたこいのぼりが風にそよぐ

――法人化から6年、小杉湯を運営してどうでしょうか。

平松さん
“銭湯”や“銭湯のような場所”が、社会に求められていると感じます。それこそ祖父の代から通い続けている方がいるし、「小杉湯があるから高円寺に越してきた」「小杉湯に救われたので働きたい」と強く魅力を感じている方が結構多いんですよ。

――この力のある建物も魅力の一つですよね。

平松さん
東京には”ビル型銭湯”と”宮造り銭湯”があって、小杉湯は宮大工さんが建てた“宮造り銭湯”。神社仏閣みたいですよね。

▲宮大工の技が光る、格子状に区切られた脱衣所の天井

前田さん
天井が高いから平屋に感じないです。開放感がありますね。

平松さん
あちこちから人が集まって、まちができていくと思うんだけど、人間より寿命の長い建物があると、人の関わりが降り積もるように積み重なっていく。だから「続けていかなきゃ」と思うんです。令和2年に小杉湯を「登録有形文化財」に登録したのですが、これは僕の意志表示。次世代に必ずつなげていくぞという宣言なんです。ほとんどの家庭に内風呂がついた現代で、銭湯のビジネスモデルを続けるのって本当に難しい。しかもうちにはサウナがない。経営はなかなかハードだけど、どうすれば建物も小杉湯も守り続けられるかって、日々考えている6年ですね。

▲小杉湯の入口に掲げられた「登録有形文化財」の文化財プレート

「銭湯のような場所」って?

――「銭湯のような場所」って、もっと説明を加えるならば、どんな場所だと思いますか?

平松さん
銭湯って内風呂がなかった時代のビジネスモデルなので、6年間小杉湯の運営をしている中で、言葉を現代用に再定義する必要があると思ったんです。公衆浴場って、番台でお金を払ってお湯をシェアするという“シェアリングエコノミー”ですよね。この「ヒト×場所」のコミュニケーション設計がすごく重要だと感じて。結果的に、番台で交わすたった数秒の「ヒト×ヒト」のコミュニケーションが活きてくるわけです。

平松さん
小杉湯では「こんにちは」や「おやすみなさい」のように、家の中で使う言葉を交わします。小杉湯に来る方って7割の人が一人。交流が目的ではなく、気持ちよくお風呂に入りたいだけなんですよね。なんだけど、ちょっとした顔見知りができたり、他愛のない会話をしたりする。大したことじゃないんだけど、そのちょうどいい感じがすごい大切で。僕らはサイレントコミュニケーションって呼んでいるんです。

前田さん
…サイレントコミュニケーション!

平松さん
地域コミュニティがなくなった都市の生活において、これって結構貴重なんです。パブリックは大きくて遠い、SNSは手軽だけど近いし狭い。だから中間のコミュニケーション。銭湯は一人で来れて、一人で居れるでしょう。ご近所さんとも、ちょうどいい関係性でいられる。別に誰かと喋るわけではないんだけど、つながりを感じられるんです。

日常の些細なことに楽しみを見出す大切さ

――小杉湯のコミュニケーションの仕組みが少し見えてきたように思います。

平松さん
小杉湯では、入浴の楽しみとか、番台で交わすちょっとした挨拶とか、日常で起きるささやかな幸せのことを「ケのハレ」と呼んで大事にしています。最近よく“自己肯定”って言葉を見かけるんですけど、自己肯定感が低い人は高い人と比較してしまう。特にSNS世代の若い子たちは他者と自分を比べて落ち込むみたいなんですよね。

▲話がはずむ前田さんと平松さん

平松さん
さっきのサイレントコミュニケーションって、近すぎず遠すぎずな関係性だから、自分も他者もなんか受け入れられる。“自己肯定”ではなく“自己受容”なんです。自然と自己受容できる空間がまちにあるって大切。それこそ神社やお寺が持つような役割だと思うんです。公衆衛生はこれまで民間の健康を担ってきたと話しましたが、これからも変わらず「心と身体の健康」を担う場所でありたいですね。

――これらを聞いて前田さんどうですか?

前田さん
サイレントコミュニケーションっていうのは非常に勉強になります。僕らアンテナのコンセプト“ローカルつながる中継基地”には“つながる”という言葉が入っているので、濃いコミュニケーションを連想される方も多いですし、僕らも節々で強い関係づくりを描いて使っている気がしています。店舗に立っていると、必ずしも交流を求める人ばかりではないのを肌で感じます。僕らも立ち返って、人を介さない、場所やモノとのコミュニケーションを考える必要があるなと思いました。

――まちのインフラ繋がりでいくと、アンテナが入っているKOENJI CROSSOVER(高円寺クロスオーバー)は、東京電力パワーグリッドが展開する新しい賃貸マンションなんですよね。

▲KOENJI CROSSOVER(高円寺クロスオーバー)のサイトより引用

前田さん
そうですね。初めて高円寺に住む方が多いので、まちに馴染むお手伝いや、地域とともに暮らしが広がるような拠点を目指しています。日頃からゆるく繋がって、いざという時は共に助け合えるような関係を築いていけたらなと。

――具体的にはどんな活動がありますか。

前田さん
月一回「クリーンアップコーヒークラブ」という清掃活動をしています。高円寺のゴミ拾いをして、終わったらアンテナのラウンジでコーヒーを飲む。参加者同士で自由に喋って、三々五々帰路につく、というゆるめの会です。平松さんの話でいくと、ゴミ拾いもサイレントコミュニケーションですよね。喋っても喋らなくてもその場は温まって、コーヒータイムに花が咲く、みたいな。

平松さん
なるほど、そうですね。

前田さん
高円寺に新しく引っ越してきた方たちとの街ブラ企画も考えています。まちの面白い場所に出かけて、行きつけが増えたり、店舗の人と仲良くなったり。段階的に街に染み出して行くのを応援できたらいいなと思います。

地域に馴染んでいくには、余計な力を抜き、ゆっくりじっくり時間をかけて。なんだか大きな湯船に浸かることと似ているように思えてきました。後編では「銭湯のような場所」の定義で作った場の仕組みを紐解きます。

▲&tenna(アンテナ)の外観
&tenna(アンテナ)は「ally(仲間)」「neighbors(ご近所さん)」「notice(情報)」「event(イベント)」「town(まち)」の5つを「ローカル」の要素ととらえ、つなげていくことを目指した複合施設です。本メディアの運営元・株式会社クオルが運営を手がけています。

最新の記事をメルマガ配信中(不定期)

Twitter

情報登録を受付中!

Return Top