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コロナに負けない、地域と関わる音楽祭「渋谷ズンチャカ!」のコミュニティ力

暑さの残る2020年9月6日の日曜日、リニューアルされた渋谷・宮下公園は熱気とリズムに包まれていました。
渋谷ズンチャカ!」—2014年から続くまちの音楽祭が開催されていたのです。もちろん、予断を許さない新型コロナウイルスの感染対策に注意を払いながら。

次第に世の中でイベントと感染対策の両立の形ができてきてはいるものの、9月頭の時点でリアルの音楽イベントを開催するのは、動きとして早かったといえます。
なぜそれが実現できたのか?

その秘訣を探っていくと、これまで渋谷ズンチャカ!が築き上げてきたチームの力と地域での信頼が土台にあることが見えてきました。
それらを積み重ねる上でどのような工夫や努力があったのか、立ち上げから関わっている渋谷ズンチャカ!運営事務局/ヤマハミュージックジャパン事業開発課の細田幸子さんにお話しをうかがいました。

まちへの「関わり」として生まれた音楽フェス

今年で7回目を数えた渋谷ズンチャカ!は、例年渋谷駅から原宿駅にかけた一帯のオープンスペースを中心に使いながら、ジャンルレスに演奏を聴いたり、自ら参加できたりするイベント。

毎年盛り上がりを見せる渋谷ズンチャカ!の誕生には、ある想いが込められていたといいます。
それは、100年に1度と形容される再開発の中で「新たになりゆく渋谷の未来に、誇りと愛着を持って関わるきっかけをつくりたい」というもの。
立ち上げ当初から、渋谷に住んでいる人も渋谷が好きな人も、まちをつくる側として関われる余白を持ったイベントという意識があったそうです。

パッと出てパッと終わるイベントじゃなくて、できたら50年、100年脈々と続く祭りになったらいいいな、という想いもある。

と細田さんは語ります。

渋谷ズンチャカ!運営事務局/ヤマハミュージックジャパン事業開発課の細田幸子さん

ちなみに、フランスの「音楽の日」や仙台の「定禅寺ストリートジャズフェスティバル」といった、まちじゅうに音楽があふれる姿から、渋谷ズンチャカ!は影響を受けたのだとか。

チャレンジを可能にした地道な信頼構築

実行委員会形式で行われている渋谷ズンチャカ!は、例年まちなかのさまざまな広場や、渋谷センター街の路上空間を使い、演奏が繰り広げられます。
渋谷区が共催しているとはいえ、なかなか大胆に都心のオープンスペースを使っています。どうしてここまでの使い方が可能なのでしょうか?

まずは、2014年はプレイベントというある種実験的な位置づけから始め、宮下公園から徐々に開催場所を広げていったそうです。
それとともに、渋谷の商店会長さんたちと地道に関係を築いてきたことが重要だったといいます。場所を借りたり、警察との交渉をしたりという場面で、理解と協力が不可欠でした。
細田さん自身、渋谷のお祭りやイベントに足しげく通っては、顔を覚えてもらって信頼ができてきたといいます。

また、会場周辺の住居へのポスティングやテナント、町会へのあいさつを毎回丁寧に行い、音が出るイベントを行うことへの周知も欠かさないことで、イベントができなくなるような事態にも直面せず、これまで続いているそうです。

2018年のハチ公前広場でのステージの様子

まちに関わる場、チーム・ズンチャカ!

このような草の根からの渋谷ズンチャカ!づくりを担っているのが、チーム・ズンチャカ!というボランティアチームです。
約50人のコアメンバーと、150~200名の当日スタッフがいるのだとか。年代は高校生から50代とさまざまで、渋谷に住んでいる人に限りません。
コアメンバーは毎回ほぼ1年がかりで、仕事や学業のかたわら月2回のミーティングを重ねて、渋谷ズンチャカ!をつくっていくそうです。

チームメンバーは毎年募集され、発足時には毎回組織体制から議論し、それぞれがやりたい部門で活動していく形がとられています。
組織が硬直化しないことで、毎回新しいアイデアにモチベーション高く関わることができ、新しいメンバーにも活躍の機会が広がります。
長くチームに関わっていく中で、「渋谷のまちの見え方が変わった」というメンバーや、人間関係に居心地のよさを感じて続けているメンバーもいるそうです。

新陳代謝をしながらさまざまな人が関わり、コミュニティとして成長を積み重ねているチームの存在が、毎年紋切型にはならずに発展している渋谷ズンチャカ!の土台にあることが分かりました。

説明会に集合した2018年の当日スタッフ

熱量を引き出すコミュニティづくり

チーム・ズンチャカ!の持つ熱量は「他のイベントにはない」ものだと、区長をはじめ太鼓判を押しています。

チーム・ズンチャカ!のアイデアややりたいことに地元の人も突き動かされているところが大きい。私はそれを地元の人や警察との交渉時に伝えるメッセンジャーみたいな役割だと思っている。

そう語る細田さん。飾らないポジティブな人柄に、チームメンバーも安心感をもってのびのびと活動できているようです。

渋谷ズンチャカ!の組織体制を見ても、チーム・ズンチャカ!が大きく描かれ、運営事務局はそれを支えるように小さく表現されており、チームの主体性の高さを見ることができます。

渋谷ズンチャカ!組織図

やりたいことを実現する運営基盤

渋谷ズンチャカ!の資金は、企業協賛や区の分担金、都の助成金などでまかなわれているそうです。
企業スポンサーについては、イベントの自由さを保つために、企業の冠はつけないようにして、企画趣旨に共感した企業が渋谷の街への貢献、未来への投資として協力しています。

他にも、「まちなかステージ」で公募する出演者からは、運営協力費を集めるという工夫で、原資を集めています。

Withコロナ開催への決意

着実に地元との関係やチームが充実してきた渋谷ズンチャカ!ですが、2020年に直面したのがコロナ禍におけるチャレンジです。
1月から年間準備がスタートしていた中、緊急事態宣言周辺の時期は、様子見とオンラインでの議論をしていたようです。

それでも、渋谷ズンチャカ!の立ち上げ当初から縁がある宮下公園がリニューアルした年にあたって、活動を消さないためにも、規模を縮小しながらでもリアルでやろうという判断に至りました。それが6月のことです。

渋谷ズンチャカ!らしいコロナ対策

やるとなれば、「渋谷ズンチャカ!らしい」対策を取ろうと、熱量とアイデアにあふれるチームが動きます。
前例のない事態で公園側でもルールが固まっているわけでもなく、チームからリサーチの結果や提案をプレゼンしていき、区に対しても説得していったといいます。

基本の検温、消毒、マスク着用、距離の確保をしっかり行いながら、イベントの中で自然に楽しく実施できるような工夫がこらされました。
たとえば、ステージMCが身振りを交えながら距離感を伝えたり、鈴をつけた消毒液を用意したりと、のびのびと楽しい雰囲気の中で対策が取れるようにしたといいます。

結果、開催後2週間後も来場者に感染はなく終えることができ、細田さんはこう振り返ります。

屋外の音楽祭の良さが今年は特に出たと感じます。開放感のある中で、参加する方々も久しぶりの生の演奏や楽器に触れるのをのびのびと楽しむことができたのは、公園だったからこそつくれた。

消毒アルコールを鈴やイラストで楽しく!
にこやかに距離の確保を呼びかけをするスタッフ

工夫の先に見えた手ごたえ

開催したことで、見えたこともあります。
たとえば、距離を取りながらでも盛り上がれる、周りの人と熱量を共有できるというのが可能だということ。

そして、うれしい反応もありました。
来場者や出演者たちから、「こういう中でやるという決断をしてくれてありがとう」という感謝の声が多く寄せられたそうです。
メンバーの誠意ある対応があって、安心感につながっていたようです。

心配していたオンライン上での批判もなく、チームとしてもしっかり準備して開催を実現したことが、自信につながったといいます。

密を避けながら、この場所らしく音楽を楽しむ時間

チャレンジの積み重ねから生まれる「まちの風物詩」

7年間、さまざまなトライを続けてきた渋谷ズンチャカ!
それを支えるチームや地域の信頼関係が育ってきたからこそ、2020年の困難にもポジティブに立ち向かえたのでしょう。

継続が大事、と振り返る細田さん。今年の開催での発見を次へと続けることを考えながら、50年後、100年後のまちの姿を思い描いています。

渋谷ズンチャカ!が年に1度のまちの風物詩までになって、その日をまちの人たちが楽しみにするような風景が生まれたら。

多くの人が関わりながら毎年工夫を重ねていくその先には、渋谷ズンチャカ!のそんな未来が待っていそうです。

(写真提供:渋谷ズンチャカ!)

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