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デジタルを活かして紡ぐ”マチ”と”ヒト”の新たな関係!「my groove」で目指すこれからのまちづくりとは

新型コロナウイルス感染症の流行も相まって各方面でデジタルツールを取り入れた変革(DX)が求められているなか、まちづくりについても多様な団体や事業者によって様々なデジタルの活用が試みられています。

そこで今回はオンラインプラットフォーム「my groove」を提供する株式会社Groove Designsの三谷繭子さんと東宏一さんにお話しを伺い、開発に至った経緯や特徴、課題などをお聞きすることで、まちづくりにおけるDXの一つの可能性を探っていきます。

様々なタッチポイントをつくり、可視化する

my grooveはオンライン上で行政や活動団体、市民などが相互にコミュニケーションを取りながら、まちづくりに関する多様なアクションを支援することを目指しているものです。まず、なぜこのようなサービスを開発することになったのでしょうか。大きくは2つの理由があります。

三谷さん)2017年に創業して以来、地域や行政・企業の方たちの間に入りまちづくりを支援しています。その経験のなかで感じた課題として、行政側が地域の方々の声を聞きたいといった意欲を持ってコミュニケーションの機会をつくっても、リアルな参加ができない層もいて、どうしても参加者が少なくなってしまうということがありました。私自身も子どもを産んで、ワークショップや協議の場に平日の昼間や夜には出て行けないということも実感し、今まで参加できなかった人たちが参加するためにデジタルを使うことが必要なのでは、と思ったことが1つです。

三谷さん)もう1つとしては、参加を継続させていくためには定常的にコミュニケーションを取ることが必要ということです。最初は関心があった人たちが多くいても、発信の仕方が悪かったり情報が行き届かなくなるにつれて段々と「なんかよく分からない」「状況がよく分からない」と離れていく、といったこともありました。せっかく意欲をもっている人たちがいるのに、関わりづらい状況が生まれてしまうのはもったいないと思いました。前後も含めた活動のプロセスを共有し一緒につくっていくことがまちづくりの現場でクリアできていない部分なのではと考え、そういうことができるモノをつくろうと思ったことがきっかけです。

my grooveは、一人ひとりの “アクション” をより増やしていくことに力点を置いており、まちの人たちが積極的に関与したり様々な貢献をしながら一緒にまちをつくっていく「コミュニティエンゲージメント・プラットフォーム」という位置付けを目指しているとのことです。最近では、いわゆるテック業界から意見収集や合意形成のためのプラットフォームサービスも出てきています。my grooveも現状はスペインのバルセロナ発の参加型合意形成プラットフォームdecidimをベースに開発されているとのことですが、このような実効性 (アクション) を伴った形でまちづくりや地域課題の解決を進めようとする点が、my grooveの特徴であり、他のプラットフォームとはまた違ったアプローチであることが伺えます。

三谷さん)コレクティブな共創の形をどうつくっていくか、というところが重要だと思っています。いま日本の自治体は、財源も職員の数も少なく、集めた意見をもとにプランをつくってもなかなか簡単には実行できないといった課題があると思っています。意見を収集することはもちろん大事なのですが、現場を見ている中では、実際にアクションしてくれる人たちといかにパートナーシップを結んで取り組むか、というところの方がすごく重要になってきているんじゃないかなと。なので、私たちの場合は匿名主体からたくさんの声を集めるというよりも、濃い繋がりを少しずつつくっていき、その人達からさらに隣の知り合いを連れてきてくれるような仕組みをつくろうとしています。

my groove WEBサイトより

共創に向けた工夫と配慮

まちづくりや地域活動に関心ある人が決して多くはない状況の中では、できる時にできる形で参加できるような環境づくりをすることが大事になってくるそうです。具体的にはどのような形があるのでしょうか。

三谷さん)例えば、エリマネ団体でも行政でもよいのですが、核になる主体がまずmy grooveを開設して、そこから情報発信をしていきます。それに対して、ユーザーとなる市民の方たちが様々な情報を見ることで「あ、こんなこと起きているんだ」と気付くきっかけになります。そこでもう一歩踏み出して、「自分も意見を出してみようかな」という段階でアカウント登録していただき、投稿ユーザーという形になって参加してもらう。そこで参加があったり返信があったりという形で少しずつコミュニケーションがでてくることで、「じゃあ自分もその活動に参加してみようかな」ということでリアルな場所に出てきてくれる。そういうサイクルを回していきながらまちに関わる人たちが増えていくといいなと思っています。

三谷さん)また、プロジェクトの全体像が伝わるようプロセスの共有や可視化も重視しています。取り組みをいくつかのフェーズに分け、今はどういう段階で、何が行われているのかが直感的に分かるようなデザインを心掛けています。そうすることで、たとえ途中からでも、あるいは全てのフェーズに参加できていなくても、今までは何があったのか、今後自分はどこで関われそうなのか、といったことが分かるようになります。

2022年1月〜3月には、神奈川県真鶴町で実証実験を行っており、行政とまちの人による公園づくりプロジェクトでmy grooveが活用されています。行政だけでなく活動団体や住民も含めた参加者全員が同じプラットフォーム上でやりとりをすることで、お知らせや団体からの活動報告、市民からのコメントなどを一挙に見ることができ、派生して生まれたミニプロジェクトのページも設置できたりします。プロジェクトの進み具合に応じて、プロセスや状況が一つのプラットフォーム上で集約・可視化されることで、実際の現場で起きているアクションが分かり、参加のきっかけにもなっています。

三谷さん)とはいえ、Web上にページがあるだけではサイト(真鶴町のmy groove)を見に来る人は増えないので、ワークショップを行ったりアイディアや意見を募るページを設け、様々な方が訪れるきっかけを持てるよう工夫もしています。真鶴町も財政的に余裕があるわけではないので全てのアイディアや意見を取り入れられるわけではないですが、ちょっとずつ改善できることをmy groove上でまちの人たちと出し合ったり、アクションしたことを共有したりとコミュニケーションを重ねていくことで、「じゃあ一緒にやろう」といった共創が生まれていくよう設計をしています。

my groove 真鶴町PJサイト

時間をかけながらトータルでコミュニケーションを設計していく

これまでお聞きしてきたように、my grooveでは参加する側の視点に立って、できる時にできる形から始められるよう様々な工夫が施されています。一方で現状にはどのような課題があるのでしょうか。

東さん)私自身はまちづくりというよりはIT系のバックグラウンドが中心ですが、意識しているのはツール自体が主役ではないということです。そこを取り違えずに、リアルな活動や場をオンラインで後押しできるような存在にまずなれるといいのかなと思っています。

東さん)実は真鶴町のmy grooveは地域外の方からも結構見られています。そういった人達がさらに場所や時間の壁を超えて、どのような形で関わっていけるのか、というところは今後検討が必要だと思っています。
一方で、既に地域に根付いてかかわりを持ちながら活動している方達が、自分たちのSNSではなくわざわざmy grooveで発信する意味は何なのか、ということは考える必要があります。例えば、地域外の人と中の人を上手く繋げられるような、効果が実感できるぐらいのものになってくると、より良いのかなと考えています。

こういったオンライン上のプラットフォームに言えることは、デジタルの場だけを用意しても有機的に動き始めるとは限らず、プラットフォーム設計も含めたコミュニケーション全体をデザインすることが必要であるということです。そういった工夫や難しさなどについても伺ってみます。

東さん)まずは関われるポイントをどれだけ作っていけるかが大事だと思っています。my grooveのような地域に特化したものの場合、わざわざアカウント登録してそこで何かをやるというのはハードルが高いと思うので、ログインしなくても”いいね!”くらいはできるとか、気軽に「ちょっと関わっていけそうだな」という感じをどう出していくかを工夫しています。

東さん)自治体などでも、住民から意見をもらってコミュニケーションしていく必要性は総論的には理解しているし、必要とは言われています。ただ、全てに対して対応していくことは現実的には難しいので、投稿された意見をそのまま取り入れるのではなく背景の思いや課題を深掘りするとか、実行できるものとできないものをどう示していくか、というようなコミュニケーションの取り方もサービスとして重要な要素だと考えています。
なので、プラットフォームとしての体験の部分とトータルのコミュニケーションのデザインという両方を上手くつくっていかなければいけない、というのは実証を始めてみて改めて感じている点です。

三谷さん)あとは、こういったものを浸透させていくことの時間軸をどう考えるかも重要です。まず最初は、どういう風にこのサイトの存在を知ってもらい、登録してもらうかというステップがあります。真鶴町での実証実験を始めて1ヶ月(※)になりますが、じわじわアクセス数や登録者数も増えてきつつも、(実験終了である)3ヶ月の期間でどこまで周知が進むかはしっかり追っていきたいです。
※編集部注:取材を行った2月時点

三谷さん)町の方たちとは、やはり時間がかかるからこそ、こういったものを使い続け、検証と改善を回すことが大事だよね、と話をしています。なので、今後のハードルとしては、短期的な成果を求めるモノではなく、中長期的な効果をどう共有しながら導入を進めていくかがポイントになるのではないかと思っています。

真鶴町「みんなでつくる身近な公園づくり」プロジェクト特設サイトより転載
真鶴町「みんなでつくる身近な公園づくり」プロジェクト特設サイトより転載(撮影 Shiori Nishi)

これからの “まちづくり” に向けて

最後に、my grooveなどデジタルの活用も踏まえつつ、お二人が描くこれからの “まちづくり” の姿についてお聞きしました。

東さん)私は今自治体や政府のデジタル化推進にも携わっています。その分野でも最近は「行政と市民がともにどうつくっていくか」ということが大事になってきています。もしそういった土壌がないと、いざ一緒に何か取り組む必要がある際にいきなり始めるのは難しく。そういった “文化” を創っていくことが必要だと考えています。my grooveを通して、地域で何かを始めたい人がより動き出しやすくなったり、地域の外からでも関わりやすくなっていくような、そういう循環が上手く起きていき、結果として「ともにつくる」土壌が育っていくと良いなと考えています。

三谷さん)生活者でもある私自身の目線の話になるのですが、仕事以外でも地域プロジェクトに関わっていると、やっぱり楽しいんですよね。地域との関わりを通じて世界が広がることで、自分の暮らしが豊かになったり、コミュニティが広がっていくことが楽しいという実感もあって。そういう経験だったり、小さな成功体験を重ねていくと「自分でもなにか起こしていけるかも」と思えるようになります。そんなふうに、主体的に動けるようになってくるんです。自分で自分の暮らしを面白くしていけたり、色々な人との繋がり・関わり合いの中で、社会に対する参画が前向きになる状況をつくりだせるといいな、と思います。

取材先近くの公園にてお二人を撮影(左:三谷さん、右:東さん)

今回お二人にお話を聞きながらまちづくりにおけるデジタル活用を紐解いていくと、そこにはデジタルだけではなく、リアルな関わりとの両輪であることを意識しながら全体をデザインしていく姿勢が伺えました。これからのまちづくりにおける一つの可能性として示唆に富むお話だったのではないでしょうか。まちづくりのDXはこれからさらにイノベーションが生まれそうな分野ですし、ぜひ今後のmy grooveの展開にも注目していきたいところです。

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