今回のインタビューのお相手は「都市戦術家/プレイスメイカー」として活躍されている泉山塁威さんです。現在は、東京大学先端科学技術研究センターの助教(2019年11月時点)として研究活動を行いながら、コミュニティメディア「ソトノバ」の編集長を務めるなど、都市経営/エリアマネジメント/パブリックライフ・パブリックスペースを軸に幅広く活動されています。
そんな泉山さんに、「歩道がひろがると街もひろがる」をキャッチコピーに新宿東口で繰り広げられている社会実験「新宿ストリートシーツ」の実施期間中、現地で取材をさせていただきました。
課題から見えてきた都市戦術家への道、ソトノバの誕生
多くの都市やパブリックスペースに関する活動を行っている泉山さんですが、そもそも都市の分野を志そうとしたきっかけは、成人式のために帰郷したまちが以前よりも衰退していることを目の当たりにしたことだったそうです。当時建築や設計を学んでいましたが、敷地の中だけではなく、包括的にまちを捉える必要性を感じ、「都市計画」の分野へとシフトしていきました。
大学卒業時にはゼネコンに入社することも考えていたそうですが、リーマンショックを機に新しくビルを建て続けることに疑問を持ち始め、3年間設計事務所で働いた後に明治大学の助手着任と博士課程に入学、都市経営/エリアマネジメントの戦術家としての道をスタートさせます。
2014〜2015年と2年間、実践として行った池袋駅東口グリーン大通りでのパブリックスペースに関する社会実験を通して、事例調査に苦労し、またレポートをあげる媒体がなく、情報メディアが必要だと感じたことから自ら行動し、コミュニティメディア「ソトノバ」の立ち上げへと至りました。必要だと思うことに対して、自ら行動するところが戦術家として使命感を感じているのかもしれません。
一過性ではなく、社会を変える動き「タクティカル・アーバニズム」とは
池袋でのパブリックスペースに関する社会実験は、ソトノバ立ち上げのきっかけだけでなく、新しい発見にも繋がりました。それは社会実験を行うために何度も関係者と会議を行うことだけでなく、オープンカフェを直接体験してもらったことにより、関係者の理解が深まり、調整がスムーズになったことでした。会議室の議論だけではなく、実体験。これが後にタクティカル・アーバニズムだったと話します。
なお、タクティカル=戦術的なという意味があり、「戦術的に都市を変えていく、小さなアクションから長期的変化(政策)に変えていく」「行政やデベロッパーなど専門家ではなくとも出来ることはたくさんある」という考え方で、アメリカではよく使われている言葉だそうです。
まだまだ課題が残る日本の社会実験、それをタクティカル・アーバニズムが解決する
日本各地でもパブリックスペースに関する社会実験は増えていますが、大事なことは数ではなく期間だと話します。泉山さんは、社会実験には、1日~1ヶ月→半年→数年と段階があり、どれだけ「まちを日常使いすること」に近づけるか、が大事だと考えています。こうした社会実験を踏まえた上で、最も注力している取り組みが「社会実験をした後どうすればよいのかを学ぶこと。12月9日~13日まで「タクティカル・アーバニズムジャパン」という名のもと、“小さな市民活動をただのイベントで終わらせない、大きな変化に繋がるはじめの一歩にするために知っておくべき知恵“をみんなで考えるイベントが開催されるようです! https://sotonoba.place/tacticalurbanismjapan2019
エリアマネジメント・パブリックスペース分野で活躍できる社会人大学院を設立すること、泉山さんの想いとは
現在ソトノバはメディア運営だけではなく、様々なパブリックスペースの社会実験やエリアマネジメントに携わっています。実践で得られた知見は、他のエリアでも活用され、さらに新たな事例を生み出します。繰り返し実践と理論をフィードバックができることが都市戦術家の魅力だと話します。
また、エリアマネジメントやパブリックスペース活用の分野は専門知識をもったプレイヤーが少ないと指摘します。ゆくゆくは社会人大学院を設立し、学びながら実践もできる場を増やしていきたいと意気込みます。大学院を設立するためにも先進的な事例を論文に落とし込み、戦術家としても学術的なポジションを得ることが必要だと語ります。
日本のエリマネOSをアップデートし、ワクワクするまちづくりを!
最近のエリアマネジメントは組織をつくってから活動目的や年間計画、予算を考えることが多いので、まずは事業をつくってからメンバーや組織を形成していくことで、タクティカル・アーバニズムのような一人ひとりが行動できるエリアマネジメントになると語っています。
メルボルンなど先進的な取り組みをしている都市に見られる、まちなかにアートを施すストリートミューラルなどの装飾は、まだ日本ではあまり見られません。また、ニューヨークにある高架廃線跡を再生したハイラインが情報発信として活用するInstagramのように、日本のエリアマネジメントもインパクトを持ってSNSを活用する事例があったらいいともお話ししていました。まだまだ海外の事例のような取り組みは数少ないのですが、今後はエリマネのOSをアップデートしていきたいと話す泉山さんでした。
(インタビューここまで)
最近の再開発ではエリアマネジメントが導入されたまちづくりが増えています。
いつの日か、自分たちのまちは自分たちでつくる!という気持ちをもって多くの人がタクティカル・アーバニストになる日がくれば、日本の街ももっとワクワクする日がくるかもしれません。(エリマネポータル編集部)