品川駅港南口から徒歩数分。オフィスビルの足元を抜けると、目の前に広大な芝生広場が広がります。今回のテーマは開業から10年を迎えた品川シーズンテラス。かつて仕事のためだけの「通過点」だったこの場所は、長い時間を掛けてゆっくりと地域に溶け込み、地域住民やワーカーにとっての「憩いの場」となりました。単なる場所をそれぞれの「居場所」へと変えてきた、エリアマネジメントの軌跡を振り返ります。

“たちどまらないまち”からの脱却
現在の品川シーズンテラスが位置するエリアは、港区の下水処理を担う、芝浦水再生センター(旧芝浦水処理場)でした。当時の周囲は、旧国鉄の操車場跡地や市場の名残があり、まだまだ刷新されていないエリアが多く、点在する低層施設への移動空間としてしか活用されていませんでした。1984年を過ぎると、品川インターシティやグランドコモンズの開業、新幹線の開通などが続き、港南口は業務機能の拠点へと変わっていきます。ただその一方で“仕ことのために歩くだけの、たちどまらないまち”という性質はそのままでした。
この課題に対し民間企業6社が立ち上げたのは、当時国内最大級のオフィスビルの建設と共に、3.5haという広大な緑地を開発するという挑戦的な計画でした。環境に最大限配慮したビルと、サッカーコートが5面入るほどの緑地が繋がることで、ビジネス街と品川の人々の暮らしとを繋げる『接点』を計画したのです。
また、単に場を提供するだけでなく、地域の人との接点として継続的に生かしていくため、エリアマネジメントの仕組みが本格的に導入されました。能動的にまちと人とを繋げ続けるために、人同士の出会いや新たな発見を誘発するイベント・継続するための資金計画・円滑に運営するための体制が民間企業側にて計画され、エリマネ組織『品川シーズンテラスエリアマネジメント』が誕生しました。

まちが季節ごとに表情を変える
まちと繋がる大きなきっかけを創ったのは、今や恒例となった「品川オープンシアター」でした。東京タワーを背に巨大スクリーンを設置し、芝生エリアを開放した野外シアターイベント。参加者は思い思いの場所に座って、一緒に映画を楽しみます。四方さえぎるものの無い開放的な会場では、大声で笑っても、こどもが声を上げてしまっても大丈夫。絵本が原作の海外作品を上映したことで、大人からこどもまで、国外の方までもが集まりました。芝生に寝転んだり、隣とおしゃべりしながら眺めたり、横でお子さんが寝てしまっていたり。品川シーズンテラスはビル施設を超え、新たな表情を見せ始めました。

この開催をきっかけに、品川シーズンテラスエリアマネジメントは、芝生広場を舞台に、まちへの接点を次々と作り出していきます。
秋の恒例となった『シナハロ(品川ハロウィン)』もその一つです。まちじゅうを仮装したこどもたちが歩き回るこのイベントは、地域住民と企業等がタッグを組み、実行委員会方式で行われた協働イベントです。ステージ披露やスタンプラリー企画など多彩な催しが実施され、翌年からは住民主催のワークショップも企画されるなど、徐々にこの場所ならではの季節イベントとなっていきました。
さらに、クリスマスには芝生の傍らにイルミネーションが灯り、幻想的な灯りに包まれます。仕こと帰りのワーカーたちが足をとめ、スマートフォンをかざして写真を撮っていく風景は、今では年末の風物詩となりました。
年が明けると、斬新な視点で生まれた定番企画『品川やきいもテラス』が開催されます。全国からとっておきの焼き芋を携えた職人たちが集まり、さまざまな食べ方を紹介していきます。毎年この日には、ビルの周りにあっという間に甘い匂いが広がります。一風かわったこのイベントは、女性たちを中心として、多くのファンを惹きつけています。

これらのイベントに共通することは、「そのまちならではの風景を、みんなで楽しむこと」。どのイベントでも、芝生に腰掛けたり、ビルの横のベンチに腰掛けたり、東京タワーをバックに灯りをともしたりと、場を生かした企画設計がされています。
また、積極的な屋外空間の活用は、2017年の「FUDGE Holiday Circus With Shinagawa Open Theater」、2018年の「the good day TOKYO 2018」など、他の団体・企業との協働の機会も生まれています。
単なるビジネス街からの脱却を目指し、様々な世代や人々との接点をつくり続けていくことで、品川シーズンテラスのまちの風景そのものも変わっていきました。

人々の変化にあわせ、日常を育てていくエリアマネジメント
季節のイベントを重ねる一方で、エリアマネジメントのイベントは、日常的な機会にシフトし、さらに多様な人との接点を増やしていきます。
2か月に一度、夜の芝生で目いっぱい体を動かす「ナイトヨガ」。こどもたちが主役の「キッズ・ファミリーテラス」。部活動のようにそれぞれの楽しみをのばす「カルチャーテラス」。様々な人に門戸を開き、品川シーズンテラスとの接点を生み出そうとする試みはまだまだ止まりません。
コロナ禍が明けてからは、ビジネス街にとって重要な「オフィス出勤」の在り方が一変しました。その中で、2023年から再開されたのが「品川横丁テラス」です。仕ことを終えた後、ビルの足元の広場で心地よい風にあたりながら過ごす時間は、普通の飲み会とは別の交流の時間を生み出しました。社会が変わり、人とまちとの関係性が変わっても、その時々のニーズに合わせて接点を丁寧に作り続ける。その粘り強い姿勢こそ、品川シーズンテラスのエリアマネジメントが保ってきたものです。
最近では、イベントが無い日であっても、芝生に遊びに来る家族連れの姿が見られています。10年に渡り、地域の人々との繋がりを紡いできたからこそ、品川シーズンテラスが地域の日常の一部として定着してきているのです。

数字に表れない、まちの空気感
エリアマネジメントの成果を振り返るとき、来場者数やイベント回数といった数字は、確かに一つの指標になります。しかし、品川シーズンテラスエリアマネジメントが丁寧に紡いできたものは、その外側にあります。
出店がきっかけで、この場所に来やすくなった。イベントに来て初めて、こどもを安全に遊ばせられる芝生があることを知った。帰り道に広場で飲めることが嬉しい。毎年来てくれるお客さんと会えることが楽しい——————。
出展者や近隣住民、ワーカーたちから聞こえてくる声は、まちに対する距離感が変わったことを示しています。かつては移動空間であった“通過点”が、様々な使い方を試すことで、地域の“居場所”として語られるようになってきました。
また、イベント企画に来場者が参画してきたことで、知り合いと一緒に訪れてくれたり、自分なりの使い方を考えてくれる人たちも現れ始めました。
大きなイベントでまず関心を集め、細やかな活動で場との関係値を育て、人自身の変化をも大切にする。その繰り返しの中で、まちの空気は少しずつ変わってきています。
品川シーズンテラスは、次の10年へ
品川シーズンテラスで起きた変化や定着した活動は、エリアマネジメントが「場」ではなく「接点」に辛抱強く向き合ってきた成果であり、この地域の新たな地域資源です。
品川エリアは高輪や品川駅周辺を中心に新しいまちが次々生まれており、毎日新しい姿を見せています。品川シーズンテラスで育まれた愛着は、次の10年にむけ、きっと新しい品川のまちの、活力となっていくことでしょう。


以上
執筆:脇本 菜津美
編集:エリマネこ編集部


