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都会の森をシェアする——Comorisが示す新しい居場所の作り方

もしも都会の中に、だれもが関われる森があったら——。東京・代々木上原で活動する「Comoris」は、都市の空き地に緑を植え、小さな森を作るプロジェクトです。特徴的なのは、緑化活動に留まらず、参加メンバーが個々人の価値観を持ちながら、民主主義・公平性を保ちながら運営をしていること。まちづくりと環境、デジタルが交差するこのイノベーティブな場について、現場の様子や運営の工夫、そして活動の目指す姿をうかがいました。

▲活動日の様子 (5/24 編集部撮影)

取材先Comoris合同会社
小田木確郎さん、橋場麻衣さん

地方との繋がりをつくる、都心での静かな挑戦

——Comorisをはじめた背景を教えて下さい。

小田木さん
Comorisを開始した一番の目的は、都市生活者の自然や地球環境に対する意識と行動を変える事です。これまでは東京を中心として仕事をしつつ、山梨の森の拠点と行き来しながら、自然と共生するためのデザインの実験や研究を続けてきました。その中で、都市生活者が日常的に自然を体験する機会を増やすことの重要性に気づきました。そこで、地方の山林に興味を持ってもらい、都心と地方の関係人口を増やすきっかけになればと思い、都市生活者が自然に触れられるリアルな場所として、アーバンシェアフォレスト「Comoris」を始めました。

——どんな風に活動をされていますか。

小田木さん
メインの活動は、都市の空き地を活用しメンバーでシェアしながら都市に森を作っていくこと。週に一度活動日を設けて、植樹や場づくりなどを行っているほか、当番制で2日に1日程度、水やりや植物のケアをしています。今はまだ植栽の途中ですが、クヌギやコナラなどの樹木に加え、ビワやイチジクなど食べられる樹種を取り入れたり、畑と森の共存、宇田川の流域文化や周辺の森とのネットワークを意識したビオトープなど、都会ならではの森のあり方を探ったりしています。

また、⾏政や地域住⺠が⼀緒になって課題解決を話し合う『Green Living Lab』としても位置付けているので、メンバーそれぞれが実験的な活動もしています。例えば、3Dスキャンを用いて、森のデジタルツインづくりをしている人がいたり、犬のおしっこポールや、うんちコンポストの実験をしている人がいたりします。

——この活動場所はどのように決まっていったのでしょうか。

小田木さん
最初は近隣の空き地でシェアフォレストの実証実験としてスタートしました。当初は4か月の予定でしたが、活動が盛り上がり、最終的には8か月借りていました。新しい活動場所はなかなか決まらなかったのですが、地蔵通り商店会の会長さんのご厚意で、アパレル会社の会長さんにプレゼンする機会をいただきました。そうしたら私たちの活動にとても共感いただいて、この遊休地をお借りできることになりました。広さは120㎡程で、前回の3倍近いですね。

▲メンバーが語らう様子と、植樹予定のグリーンたち

DAOで育む、森づくりのコミュニティ

——会員メンバーの募集はどのくらいの頻度でしょうか。また、会員ではない一般の方でも活動に参加できるのでしょうか。

小田木さん
会員募集は、半年に一度程度行う予定です。動植物の生態に合わせた学びを体感してもらいたいので、できれば1年を通じて参加して貰いたいと思っています。実証実験では、メンバーだけでなく地域住民の方も自由に使える場所としていましたが、この拠点については、土地オーナーさんとの約束で、一旦は会員のみの参加でスタートしています。今後は、再度地域に開くしくみを考えたいと思っています。

——Comorisに参加されている方は、どんな属性の方が多いですか。

小田木さん
年齢層は30-40代が多いと思います。20代や学生もいますし、こども連れで参加してくれる人もいますね。会員ではないですが、今日は鳥取から高校生が見学に来てくれています。メンバーはデザイン系やコンサル系の人が多いですが、学生や大企業のサスティナブル系部署の人も居ますし、ジャンルは様々です。

▲台車等を下すためのスロープを作るメンバー

——代表を作らない全員がフラットなDAO (自律分散型組織)の形式をとっていますが、具体的にはどのような運営体制なのでしょうか。

小田木さん
現在は、研究活動で関わるパートナーの方々を含む50名程で活動しています。リアルな拠点には、シェアメンバーを中心に25名程度が関わっていて、専用のDiscord(=トークアプリ)コミュニティでやりとりをしています。シェアメンバーは議決権(=投票する権利)を持っているので、Discord上で自由に起案し、全て投票によって多数決で決めています。

——参加者の方は、この運営についてどのようなご様子でしたか。

小田木さん
初期は起案を呼びかけてもなかなかみんなのってこないので、設立メンバーが中心になっていましたが、最近は去年からのメンバーが新しいメンバーを引っ張るようになり、発言や起案も活発になっています。毎週の活動日に加え、週一度はオンラインで顔を合わせる機会を作っているので、リアル活動にあまり参加できない人との温度差ができないように工夫しています。

起案内容は様々です。運営に関していえば、例えばウッドデッキの設置位置や、活動する曜日を決めたり、植物図鑑を作りたいという話が起きたりなど。ユニークなものでは、自身の畑の収穫や釣りの呼びかけをする人もいましたね。

——DAOとして運営する上で、何か困りごとはありますか。

現在、コミュニティに関する困りごとはあまり無いですね。でも恐らく規模の問題で、今後多拠点化によって参加者が100人を超えてくると、お互いに知らない人も出てきて、別の検討項目が出てくると思います。

▲メンバーの方が持ってきて下さった杉の葉のピクルス
▲Discordでのコミュニケーション

デジタルが作る新しい経済圏

——持ち回り制とお聞きしましたが、植栽等の日常的な管理はどのように行っていますか。

橋場さん
一日おきで水やりをしています。水やり担当は、メンバーにオンラインカレンダーに入力してもらって、自己申告制で決めています。誰も居なければ設立メンバーが対応予定ですが、今のところそういう場面はありません。

——先ほどのDiscord以外に、DAOで使っているシステムはありますか。

橋場さん
メンバーの貢献を可視化できる『TOBAN』というオープンソースのアプリがあるのですが、その開発チームと連携しながら、Comorisでの活用の仕方を実験しています。Comoris内には現在、食べられる森をつくる「FOOD FOREST」や、水辺をつくる「BIOTOPE」など複数のプロジェクトが立ち上げられているのですが、メンバーが自身の活動によって貢献すると、担当から感謝の気持ちとして“ケアポイント”が送れるようになっています。また、プロジェクト担当に限らず相互に送り合えるので、例えば風で倒れてしまった苗を直してくれた人や、イベントの準備を率先して手伝ってくれた人に、メンバーからポイントを送る事もできます。アプリの画面で気軽に見られるので、ポイントの動きで、皆がどのようにComorisで活動しているのかわかるようにもなっているんです。一日あたりのポイント流通量でComorisの活発度も測れます。

▲ケアポイントの流通状況が可視化される

小田木さん
このケアポイントは、地域通貨のようなトークンに変換されることで、例えば更新時の会費で割引を受けられるなど、メンバーに還元される形にしていけたらと思っています。また、緑や自然に関係する店舗や施設でトークンを使えるようにして、資源を交換しあう取組も構想しています。トークン経済圏のようなものが広がっていくと良いな、と考えています。

——2拠点に渡る活動は大変に感じられますが、意識されている事や工夫などがあれば教えて下さい。

小田木さん
一番のポイントは、Comorisがビジネスとして儲けることよりも都市に森を増やすことにフォーカスしている点です。会費というより出資金のような位置づけになっていて、メンバーが出資すると都市に緑が増えていき、自分で使える緑や庭が増える事に繋がるような仕組みにしています。都市生活者の自然に対する意識と行動が変容してくる事がゴールなので、山梨の森をメンバーに活用いただく事は、ゴールにより近づく事と捉えています。

▲育まれる森の緑の中で、メンバー間の交流も生まれていく

——今後、他の拠点に展開する予定はあるのでしょうか。

小田木さん
現在、都内で1か所お声がけをいただいています。また、東京ではないんですが、新しくできる公園のParkPFIと組む計画も持ち上がっています。公園の一区画に、Comorisで森を作っていくようなイメージです。

——すごい、新しい展開ですね。代々木のComorisメンバーは、他の拠点でも自由に活動に参加できるのですか?

小田木さん
はい、自由に参加できます。都内は、代々木上原と同じようなスキームを想定していますが、ParkPFIの方は周辺のマンション住民の参加など、違う形のメンバーシップも考えています。まずはこういった都心で、緑の少ないところに森を作っていきますが、ゆくゆくは郊外の空き地や空き家の再生も考えていく予定です。

——森と人の繋がりという視点から、活動が今後も多種多様に広がっていきそうですね。ありがとうございました!

▲Comorisから見える森づくりの風景

都市生活者の視点を変える目的から始まったComorisには、メンバーの自主性を重んじる土壌と、気軽に声をあげられる仕組み、それらを支えるデジタル面での実装がありました。ひとりひとりが自由に森を楽しめるリアルな場と、幅広い関係人口を繋いでいくテクノロジーの共存は、未来のまちづくりのヒントになるかもしれません。

活動の詳細はこちら↓

Comoris Instagram  https://www.instagram.com/Comoris_tokyo/
・Comoris HP  https://Comoris.co/

執筆・撮影: 脇本 菜津美
編集: エリマネこ編集部

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