
2月26日(水)、港区立産業振興センターにて、「“MINATO INNOVATION CIRCLE” 共創で推進していく地域の特性を活かしたにぎわいのあるまちづくり」と題した講演会が開催されました。
本講演は「共創」をテーマとし、東京大学まちづくり研究室教授・小泉秀樹氏の講演、まちづくり事業者3者によるパネルディスカッション、スタートアップピッチが行われました。
第1部:東京大学まちづくり研究室教授・小泉秀樹氏による講演
小泉氏は「共創が生む持続的な地域の価値を考える」をテーマに、講演を行いました。まずはまちづくりのこれまでの歴史を振り返ります。

日本でまちづくりが本格的に推進されるようになったのは1970年頃で、小泉氏はこのエリアマネジメント黎明期を「まちづくり1.0」と呼んでいます。世田谷区や神戸市が「まちづくり条例」を制定するなど、行政が主体的に活動を推進していた時期で、住民は条例に基づいた地域活動でまちづくりに協力していくスタイルもこの年代に確立されました。全国的にも広く普及し、多くの商店街や歴史的なまちづくりも、この手法で行われています。
2000年頃になると、中間支援組織が登場する「まちづくり2.0」へ移行します。中間支援組織はまちづくりに関して気軽に相談することができるもので、ときにはファンド等による活動助成や、専門家の派遣といったサポートを行います。「2.0」は、小さなプロジェクトが地域ごとに花開くことで、都市全体の公共性が高まるといった考え方に基づいています。この時期に、“公共性とはより分散的なものである”という方向に変わっていったと考えられます。
そして「共創」を考えるうえで大事なのが、住民・行政・私企業の3者の連携に重きをおく「まちづくり3.0」です。3者が協力するには、中期的な共通のビジョンが必要で、これまで行政が制定していた都市計画マスタープランや総合計画とは異なり、3者が対等に作っていくものでなくてはならないと小泉氏は話します。制定したビジョンを元に、3者が協力する形で行われるまち作りを「共創型のまちづくり」と小泉氏は定義し、さまざまな人のアイデアと能力を最大限発揮できる形を考えることが重要としていました。
最後に小泉氏は、「これまではボランタリーなまちづくりが多かった。もっと営利企業を巻き込めるような、中間支援組織の役割を誰かが担っていかないと、共創型のまち作りの実現は難しいのではないか」と述べ、講演を締めました。

第2部:パネルディスカッション
第2部のパネルディスカッションには、NTTアーバンソリューションズの諸藤弘之氏、株式会社花咲爺さんズの加藤友教氏、モデレーターに株式会社クオルの栗原知己氏が登壇し、「港区港南地域の魅力と共創の力を探る」をテーマにしたトークを繰り広げました。一部の内容を要約してご紹介します。(以下、敬称略)

「品川は日本の“結節点”になる」 事業者から見た街の魅力
栗原:加藤さんはオフィスもご自宅も港南エリアにありますね。住んでみてわかる、この地域の魅力や個性を教えていただけますか?
加藤:明治以前はなかった新しい地域なので、桜並木や水辺の遊歩道なども含め、これからいろんなものを作っていこうという活気があります。ユニークなコンテンツもいろいろあって、生活していて楽しいです。
栗原:次に、ビジネス視点で見るとどんな街でしょうか?
加藤:品川は新幹線の発着駅であり、羽田空港へのアクセスも良く、さらにリニア新幹線の開通や南北線の延長も控えていますから、より日本の“結節点”となる場所だと感じています。これからの時代は情報よりも対面の価値が向上すると思うので、多様な人が行き交う中でのアクセスポイントとなるでしょうね。エンターテイメント性も含めて、大きな可能性がある街だと感じています。
栗原:続々とタワーマンションやビルが建っていますが、まだまだ開発の余地が十分にあると思います。山手線の駅でこれだけポテンシャルのある場所は少ないと感じるのですが、デベロッパー目線でみた港南地区はどんなエリアですか?
諸藤:弊社としても駅前のAREAや品川シーズンテラス、NTTドコモ品川ビルといった物件を所有していて、グループ資産が多いとても重要な地域です。個人的には、東西を繋ぐ環状第4号線や、高輪ゲートウェイ駅のペデストリアンデッキの工事が始まっていて、街が変わろうとしている今この瞬間に立ち会っていると感じますね。
栗原:デベロッパーにとっても、若い企業にとっても、成長発展性の期待できるエリアですね。今日のテーマである「共創」は、自然発生的にできるものではなく、誰かが主導していかないと生まれないと思います。これまで多くの事例を作ってきた加藤さんから見て、共創を促す上で大事なことは?
加藤:街の特徴を生かしたビジネスを展開するのがポイントで、そのためには街を理解することが大事だと思います。そして住民さん、行政、企業の共創を作るうえでは、参加型のイベントを企画するのがテクニックの1つですね。品川シーズンテラスで毎年行われている「品川ハロウィン(通称:シナハロ)」が好例で、企業が主導して作るのではなく、住民さんたちと一緒に実行委員会を立ち上げてコンテンツを企画し、毎年少しずつ積み重ねてきました。それぞれの歩幅を合わせることが重要です。

利益に直結しない“エリアマネジメント”に注力する意義とは
栗原:諸藤さんは長年このエリアでエリアマネジメント活動をされていますが、デベロッパーがエリマネをすることの意義を教えていただけますか?
諸藤:品川シーズンテラスでいうと、下水道局の上に建てた建物なので、“地域に貢献した建物にすること”が1番コンセプトでした。ただ2015年に竣工してから10年が経ち、これまでの経過や実績を踏まえて、これからの10年は新しいエリアマネジメントを作り出していかないといけないと感じています。その中で共創を作っていくには、地域の多様な関係者を巻き込むことが重要かなと。
栗原:まちづくりをする中で、マネタイズへの課題感はつねにあると思います。10年間エリマネを継続してこられて、この先も続けていかれるわけですが、エリマネに資金を投入する価値はどこに感じられていますか?
諸藤:とても難しいのですが、エリアマネジメントの価値とビルの価値はまったく違うと思うんですよ。地域と深く繋がることがエリアマネジメントの価値だと言われますが、ビルの価値に直結するわけではないんです。デベロッパーの売上はオフィステナントが上位を占めているのですが、弊社ではオフィスの扱いと同じようにエリマネ活動も大切にしているんですよね。
栗原:実際にエリアマネジメントをしていく中で、住民さんや現場の方々からの反応はいかがでしょうか?
加藤:シーズンテラスの竣工の際は、「公園を作ってくれて本当に良かった」といった声をよくいただきました。あとは住民さんたちが活躍できるステージを用意すると、感謝されますね。たとえばヨガの先生が地域の人たち向けにシーズンテラスを使って教室を開いたことで、活動の幅が広がったといったお声をいただきます。
栗原:先ほどの「品川ハロウィン」も、もともとは住民さんからの相談から始まりましたよね。まさに共創の成功事例だと思うのですが、スタートから10年が経って、今の「シナハロ」は住民さんにとってどんなイベントなのでしょうか?
加藤:実行委員会があって、住民さんたちが主導するイベントであることは今も変わりません。この10年で中心メンバーが入れ替わって、今は一旦バトンタッチが終わった時期ですね。当時小学生だった子たちも10年経つとだいぶ大人になるので、新しく小学生となったお子さんたちの親御さんに引き継がれました。20〜30社の企業さんにも協賛していただいていますし、みんなに支えられて成り立っています。

栗原:世代交代をしているにも関わらず継続できているのは、誰か1人が頑張っているのではなく、実行委員会という組織が機能している証なんだと思いました。デベロッパーにとっても、賃料に直結するわけでないものの、企業価値に繋がるのではないでしょうか?
諸藤:そう思います。今展開している「品川スタイル研究所」では、地域の皆さんがやってみたいことを、街の中で実際に行うという活動を行っています。ボードゲーム交流部や、クリエイターたちの「好き」を体験するクリエイティ部などの活動を通して見られるのは、ビルへの愛着だったんです。お金に換算できるものではありませんが、施設や物件の価値は愛着によって成り立っていると思います。
栗原:エリアマネジメント活動によって、住民さんとの連携が生まれていますね。企業間のネットワークはいかがですか?
諸藤:NTTグループや、お付き合いのあるテクノロジー関係の会社さんを集めて、住民の方やワーカーさんに体験していただく「品川テクノロジーテラス」というイベントを実施しています。参加者から得たフィードバックを製品開発に生かす、共創の取り組みですね。
栗原:企業同士の共創活動のゴールは何でしょうか?
諸藤:品川のブランド力が上がるといいなと思っています。新しい製品や価値が次々生まれる場所であってほしいですね。それが世間に認知されれば、物件の価値向上にも繋がりますし、小さな共創から生まれた小さな会社がどんどん成長して、自社の物件に入居してくれるサイクルが生まれるのが、1番望ましい形かなと思います。
栗原:港南地域が1つのインキュベーションエリアとなって、若い企業が新しいアイデアをどんどん生み出すフィールドとして世間に発信していくようになるのがベストですね。
諸藤:まさにそのためのイベントだと思っています。これからは、ただ単純にビルを建てればいい時代ではないので、非常に高度なレベルで付加価値を付ける取り組みだと感じています。

今後港南地域で取り組んでいくべきこと
栗原:最後に、今後このエリアでどのような取り組みを行っていくか、教えてください。
加藤:ある程度開発が進むと、人の数はもちろん、多様性が圧倒的に増えると思うので、その中で何をするのか考え続けています。ポイントはどうやって人と人を繋げるかですね。今やってることでいうと、リニアモーターカーで将来繋がる地域との交流を図ったり、災害時の避難体制を整えたりしています。
栗原:諸藤さんはいかがでしょうか?
諸藤:共創を作ることは継続しつつ、馴れ合いすぎずに切磋琢磨できる関係が築ければ良いと思っています。その例として行っているのが映画祭連携ですね。もともと品川シーズンテラスではオープンシアター形式の映画祭を実施していて、品川インターシティさんや天王洲アイルさんも行っていたので、連携することとなりました。それぞれの個性を生かしながら、共通のものを作っていく取り組みです。
栗原:インターシティを運営する日鉄興和不動産さんは、デベロッパーとしてはライバルですが、品川を盛り上げる意味では呉越同舟で、ライバル企業同士の共創が生まれているんですね。お2人とも、本日はありがとうございました。

第3部:スタートアップピッチ
講演終盤には、まちづくり関連のサービスを展開する新興企業による、スタートアップピッチが行われました。
「ぷらる」(Plaru Inc.)
「ぷらる」は、AIを活用した旅行ルートの提案を行ってくれるAI旅行アプリです。地方経済の衰退を課題とし、魅力的な地域やその住民を守るために始まったサービスで、SNSの効果的な活用によって、広告費をかけない運用を行っています。中央大学との共同研究も実施しています。
「Global Virtual Travel」(株式会社SeiRogai)
「Global Virtual Travel」は、世界各地の旅行先のVRツアーを楽しめるオンラインプラットフォームです。地域の魅力を再発見したり、旅行前に目的地の歴史や暮らしを体験することもできます。PC・スマートフォンでも利用できますが、VRヘッドセットを用いることで、より没入感のある旅行体験となるようです。
「SilentLog」(レイ・フロンティア株式会社)
「SilentLog」は、日々の移動(位置情報)を記録するライフログアプリです。移動データを読み解くことで、ユーザーのライフスタイルやニーズの理解に役立てることができます。また情報を分析し、行動を可視化するプラットフォーム「SilentLog Analytics」も展開しています。
「みんラリ」(Fantrec株式会社)
「みんラリ」は、誰でも無料でスタンプラリーを作ることができるサービスです。スタンプラリーを用意し、ゲーム感覚で旅先を巡ってもらうことで、地域の活性化に貢献します。“全制覇”を狙いにいくような熱量の高い人へのアプローチにも。アニメ作品とのタイアップも行っています。
今回の講演会はハイブリット開催で、港区立産業振興センターには20名以上が、同時配信したオンラインでは50名以上の参加者が集いました。港区港南エリアはヒト・モノ・コトなどの地域資源が充実していることに加え、それぞれの立場から発信されるアイデアも魅力にあふれていると感じました。地域に目を向け、関わりしろを探ってみることが“共創”につながると考える時間となりました。(執筆:山本佐知、編集:エリマネこ編集部)