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民間企業が担う「地域防災」とは?高円寺の地域施設を訪ねる防災散歩レポート 

9月が防災月間であることをご存じでしょうか? 

30年以内に約70%の確率で起こると言われている「首都直下型地震」や「南海トラフ地震」、集中豪雨等による自然災害が年々増加傾向にある昨今、地域住民や地域関係者がお互いに助け合う「地域防災」の重要性がさらに高まりつつあります。 

「地域防災」のヒントとなりそうなイベントが高円寺の地域施設「イマジナス」で開催されました。この施設は過去数回ご紹介してきた、まちの複合施設「&tenna(以下、アンテナ)」のご近所でもあります。イベントの様子をエリマネこ編集員が取材してきました! 

まちと地域施設の役割や機能を知り尽くす!「防災散歩」 

地域の防災意識を高めたいと開催されたイベント「逃げも隠れもします!街を知り尽くせ!防災散歩」。 

このイベントを主催したイマジナスは、旧杉並第四小学校の校舎を活用した科学体験施設で地域の震災救援所も兼ねています。この施設の持つ役割や機能を知ってもらうことが地域の防災意識向上につながってほしいと、「防災散歩」が企画されました。 

▲旧杉並第四小学校の校舎を活用した科学体験施設、イマジナス(イマジナスHPより) 

イマジナスはMICEのトータルプロデュースを生業とする株式会社コングレ(以下、「コングレ」)が運営。杉並区が保有する旧杉並第四小学校の校舎にテナントとして入居し、施設運営を行っています。 

有事の際にも心強い!高円寺にある3つの施設とは 

「防災散歩」は楽しく高円寺のまちを散歩しながら、もしもの時に役立つ地域施設の役割や機能を学ぶことを目的としています。 

「イマジナス」を起点として、以前エリマネこでも取材をしたことがある「小杉湯」、「アンテナ」の3か所を訪れました。 

▲いずれの施設も徒歩10分圏内にある地域の施設 

イベント当日は、防災大好き!という小学生から、高円寺のまち散歩が楽しみという家族連れ、様々な防災イベントに友人と参加しているという大学生や、近所に住むご年配の友人同士と多様な方が参加。 

散歩に行く前から、防災イベントとは思えない、まるで遠足前のような楽しい雰囲気が印象的でした。 

▲ボランティアスタッフの大学生や散歩のプロ、理学療法士などのサポートスタッフも 

防災にもつながる?大事な目線と心掛け

「防災散歩」の引率者は、運動生理学者の佐藤真治先生。高齢者の健康見守り活動「夕焼け散歩」の発案者で、高円寺のまちで活動をしています。 

散歩をスタートする前には、佐藤先生おすすめの自律神経バランスを整えるストレッチを行いました。 

もし被災した場合、慣れない避難所生活のストレスにより災害関連死につながることも。心身の調子を崩さないためにも体を動かし自律神経を整えることが重要と教わります。 

▲防災散歩のようなイベントを通し、楽しみながら防災を身近に感じてほしいと佐藤先生 

被災した時に心がけてほしい目線として、一番立場の弱いひとにペースを合わせることや、そのためにも普段から立場が弱いひとに対する優しいまなざしを地域内で増やしておくことが大切という話に、みなさん真剣に耳を傾けていました。 

一時滞在施設とは?「アンテナ」の役割と機能 

最初に訪ねた地域の施設は、地下変電所の上部を有効活用し、東京電力パワーグリッド株式会社が展開する賃貸マンションの1、2階にある「アンテナ」です。 

アンテナは、まちづくりを生業とする株式会社クオル(以下、「クオル」)がテナントとして入居し、施設運営を行っています。 

カフェ・コワーキング・イベントスペースと多様な機能がある複合施設で、中野区と防災協定を結んでいる「一時滞在施設」でもあります。アンテナがある大和町は、住宅密集地で高齢化も進んでいるため、防災意識が高い地域だそう。 

▲アンテナのカフェスペースでここまで歩いてきた道のりを確認 

一時滞在施設とは、災害発生時に学校や職場などの帰属がなく、帰宅が可能になるまでの間に待機する場所がない方を一時的に受け入れるための施設です。アンテナには水や非常食、簡易トイレ等の備蓄があり、EV車による電源供給も用意されています。 

有事の際、アンテナは中野区と連携し、初期対応と施設が安全で衛生的に使用できるよう運営支援を行うそうです。 

▲ピロティ奥にはEV車を駐車。屋上には太陽光パネルの設置も 

缶詰やすごろく、防災イベントもさまざま 

助け合いができる共助の関係づくりが大事と考え、顔見知りを増やすことを目的とした様々なイベントも開催。コミュニティスタッフがちょっとしたおせっかい役としてつながるお手伝いをしています。 

「防災を自分ごととして捉えてほしい」と年に数回の防災イベントも企画しており、「防災すごろく」の体験や、お気に入りの非常食を備えるきっかけとして日本各地の缶詰を試食するイベントなど、楽しみながら防災に触れることができる機会をつくっているそうです。 

「顔がわかる関係性をつくれたら安心感にもつながり、地域に知り合いを増やすことが防災につながると考えています」とアンテナスタッフの小林帆菜さんが話をしてくれました。               

▲日本各地のバリエーション豊かな缶詰を試食 
▲昨年のイベントで体験した防災すごろく 

銭湯の貯水タンクも防災設備?! 

商店街を通り高円寺らしい街並みを楽しみながら、次の訪問先である「小杉湯」へ。

小杉湯では毎日、その日の営業に必要な7トンの水を地下からくみ上げて貯水タンクに溜めていますが、有事の際にはその貯水タンク内の水をできるだけ地域の皆さんに提供したいと考えているそうです。 

▲7トンの水を貯水しているタンク 

ご近所交流で防災の話をしやすく 

小杉湯は昭和8年創業、90年近く地域に根差してきました。木造住宅密集地内の銭湯営業だからこそ地域防災が大事と考え、小杉湯に隣接するご近所へ月1回の挨拶回りを行っています。 

毎月交流することで防災のことも話しやすくなるため、日常からご近所づきあいを発展させることを大事にしているそう。 

「防災の設備を知ることも大事だけど、ご近所とつながる大切さ、まちやひととつながることが地域防災にもつながると思います」と店長の平松さんが話をしてくれました。 

▲月1回の挨拶回りで「もしよかったら入りにきてください」と声掛けしているそう 

銭湯スタッフも意識的に防災を考え、もし浴場にいる時に地震が来たらどうするか、停電で真っ暗になった時には?とシミュレーション行い、起こりうる課題をクリアするための取り組みをはじめているそうです。 

震災救援所とは?「イマジナス」の役割と機能 

最後の見学施設「イマジナス」は、震度5強以上の地震発生時に在宅避難が難しい地域住民の避難所や救護拠点となります。 

イマジナスの屋上には51枚の太陽光発電パネルが設置されており、避難スペース1日分の電力をまかなうことが可能。また、ライフラインベンダーと呼ばれる自販機は、災害時に電力が供給されない場合でも手動で商品を取り出すことができ、自販機内の飲料が無償提供されます。  

▲屋上プール跡地に設置された太陽光パネル
▲飲料メーカーと契約しているライフラインベンダー 

備蓄倉庫には水・非常食や必要な備品類が備えられ、仮設トイレの設置が可能なマンホールトイレや、井戸水をくみ上げるポンプ、災害用Wi-Fiと、多様な防災設備を備えていました。 

▲美味しさにこだわって選んでいる非常食
▲仮設トイレにも使用される井戸水 

普段から地域や地域のひとを知り、助け合う気持ちを育てる 

イマジナスの見学終了後には、訪ねた施設や道のりを整理。感情とセットにすると記憶が定着しやすいと、道中に感じた気持ちを表すシールを貼ったり、各施設の役割や機能を記載して「自分だけの防災マップ」を完成させました。 

「設備の備えだけでは役に立たない、地域の住民が自分のリソースを少しずつ持ち寄って助け合う気持ちを持つこと、普段からその空気感を地域内でつくり、熟成させることが大事」と、地域防災の心得となる佐藤先生の話で防災散歩イベントは幕を閉じました。 

▲日頃から防災を意識するため、目に届く場所に防災マップを貼ってほしいと佐藤先生

 有事の際、イマジナスは来館者の誘導や安全確保などの初期対応を実施。具体的な震災救援所としての運営は、地域住民が主体で行うという役割分担になっているそうです。 

「民間だからこそできる企業や人をつなぐ力と、建物の所有者である杉並区との連携で、地域の防災意識啓発と情報発信源として少しでも役に立っていきたい」と、イマジナスを運営するコングレの酒見恵子さんが話をしてくれました。 

▲「いざという時にご近所さんの顔を知っているだけでも安心感や連帯感は計り知れない」と酒見さん 

防災散歩に参加してあらためて感じたことは、地域防災とは「地域のつながり」だということ。その地域に対する関心を広げ、地域の施設や協力者と連携し、その関係性を日頃から育てておくことが地域防災の第一歩となりそうです。 

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