
「移動式あそび場」という活動をご存じでしょうか?プレイカーやリヤカーに様々なあそび道具や素材を積み込み、公園だけでなく、道路、団地の駐車場、被災地の仮設住宅まで、文字通り「どこでも」一瞬にしてあそび場に変えてしまうユニークな取り組みです。行政や企業、商店街、自治会など多岐にわたる主体と連携しながら、各地に出動し、場所に合わせて“あそび場”を展開しています。2008年から活動を続ける星野 諭(通称:かーびー)さんを取材し、まちなかで場づくりを行うプレイヤー目線のまちづくりについて伺いました。
なお、本記事は、2025年3月15日(土)ワテラス広場で開催された「ワテラスキッズ 移動式あそび場」イベントの様子を撮影しています。
移動式あそび場はどのように誕生したのか
「移動式のメリットは、本当にどこでもあそび場に変えられるということ」と語る星野さん。これまでの出動回数は2,800回、42万人もの子どもたちにあそびを届けてきました。
――移動式あそび場はどのように始まったのでしょうか。
星野さん 2005年頃、もともと都心で常設運営していたあそび場が閉鎖になり、新たな拠点を探していました。当時学生だった僕にとって都心の高額な家賃は大きな壁で。そんな時、たまたまドリンクをたくさん積んでいる自動販売機の補充車が目に入って。おもちゃ箱のような車にあそび道具を積んで移動すれば、まち中をあそび場にするという目標に近づけるとひらめきました。これが活動の原点です。

どんな場所でもあそび場に。移動式あそび場を大解説
――活動のシンボル、プレイカーの特徴を教えてください。
星野さん プレイカーは移動式あそび場のシンボルとも言え、たくさんのあそび道具を運びます。規模の大きなものだとハイエース、軽トラックやリヤカーがあります。最小のものだと、昔よく出前のラーメンを運ぶときに使われていた岡持ち(おかもち)なんかもあります。プレイカーのボディに施されたカラフルなペイントは子どもたちの手によって描かれたもの。また、地域ごとのコンセプトに基づいたあそび道具が積まれていて、自然素材を重視したり、運動に特化した道具を選んだり。その地域ならではの特色を反映しています。

――例えばどんな素材があるんですか。
星野さん 例えばただの長い木材を繋げてバランスゲームになったり、木材の破片は積み木やおままごとに使われたり。段ボールは特に万能で、キャタピラやソリを作ったりできます。子どもたちの自由な発想次第で、身の回りのものがあそびの素材へと変わります。

“あそび場×〇〇” 多彩なコラボレーションが広げる無限の可能性
「移動式あそび場の魅力は、単に場所を変えるだけでなく、多様な分野とのコラボレーションが生まれやすいのが特徴で、どんな資源ともかけ合わせられるんです。」と語る星野さん。様々な場面でコラボレーションが実現しています。
――例えばどんなコラボがあるのでしょうか。
星野さん 地域のコンテンツを持つ人とコラボすることが多く、例えば長野の藍染職人と染め物のワークショップをしました。それから“あそび場×スポーツ”。ラグビーボールを使ったことがあるのですが体験教室ではなく、競技としての“スポーツ”の枠を超えて“ボールに触れる楽しさ”を提供しています。さらに近年注目されているのが“あそび場×防災”です。あそびの中で防災の知識や行動力を身につけることができるので子育て世代の参加率も高いです。福祉や防災など全く違う分野とのコラボレーションは地域の人的、文化的、知的資源を掘り起こせますし、移動式だからこその強みだなと思っています。「移動式あそび場×〇〇」みたいなコラボを通してもっと違う面白さやそれぞれの価値を、提供できるんじゃないかなと可能性を感じています。

細部まで考えられた場のデザイン
――場づくりをする際に工夫していることはどんなことでしょうか。
星野さん あそびを展開する場所によって、参加層が異なるためその場所に合わせてデザインしていくことが大切だと考えています。それぞれの場所の特性を捉え、自然とあそびが生まれ、交流が生まれるような工夫をしています。
例えば、道路や公開空地といったオープンな場所では、通りすがりの人がふらっと参加しやすく、さらに子どもたちと様々な世代との間で自然な交流が生まれるきっかけづくりが期待できます。また、地域の人々との顔の見える関係を築くことにも注力していて、イベント会場で地域のキーマンに警備員をしてもらったり、地域内の魅力を発見するクエストを実施したりと、交流を図れる試みも行っています。
提供するあそび道具にも趣向を凝らしているんです。「動的×静的」「一人あそび×集団あそび」といった多角的な視点から場の環境に合わせて最適なあそび道具をセレクト。例えば昔あそびはあえて人通りの多い場所に配置することで、通りすがりの大人が懐かしさを感じて参加しやすくなるなど、あそびへの入口を意識的に作っています。また、昔あそびは多世代間交流にも最適で、地域のお年寄りが得意なことが多く子どもたちが教わることで自然な交流が生まれます。

――自然にあそびが始まる仕掛けを常に考えているんですね。
星野さん そうなんです。子どもが“したい”っていう好奇心を大事にしていて、自分でセレクトしながら、あそびをクリエイトしていくことをポイントとしています。だからこそ、最初の環境設定で7割8割決まる。場づくりも建築も一緒だなって思います。

――行動を起こすことから一歩踏み込んだ“コミュニティ形成”にはどのような仕掛けづくりをしているのでしょうか。
星野さん あそびは自然に促したい一方で、コミュニティ形成は“自然に始まる”のがなかなか難しい。そこで参加者同士をつなげるプレイワーカーの役割がとても重要になります。現場の安全管理に加え、参加者の相談に乗ることもあるんですよ。
移動式あそび場が社会の課題解決に
――日本の課題があるところに移動式あそび場は最適だとのことですが、実際にどんな課題がありますか。
星野さん 特に課題として耳にするのは、主に「コミュニティの希薄化」と「子育ての孤立」。まちづくりでは、再開発や都市部駅周辺の開発における「新旧住民の関係構築」が共通の課題です。また、SDGsや企業の社会貢献ニーズ(子育て・防災・環境)に取り組み、発信したいという声も届きます。
――移動式あそび場をやってきて、社会課題に対して得られた手応えはありますか。
星野さん そうですね、まず開催の頻度によって、得られる効果やメリットが結構変わってくるのが面白いです。本当にきれいなグラデーションになるというか。
例えば、年数回くらいのイベント開催型でいうと、社会的な発信力が核となります。イベントをきっかけに繋がりを作り、地域のにぎわいを生み出すことが大きな目的になります。そのため、イベントにインパクトを持たせ、その過程で生まれる繋がりを意識しています。実際、集客力もあり大きな公園や広場のイベントに出動した際は、一度に1万5千人くらい集まることもあります。

それが月1回くらいの開催頻度になると、あそび場自体を楽しみに来てくれる人が出て、半日常的な空間になってくる。そこで遊ぶうちに、気づけば挨拶し合うようになったりするんですよね。「顔の見える関係の構築」が定期的に開催する圧倒的な強みで、まちの中に友達を作っていけるメリットが一番大きいと感じています。
さらに週1回開催になると、あそび場が完全に子どもたちの「居場所」になるんです。週に一度の楽しみとして、「あそこに行きたい」って思ってくれる場所になっていく。
だから、出動の頻度によって、そういった効果の違いが出てくるのは、すごく特徴的で面白いなと思っています。
今後、移動式あそび場が目指すこと
――移動式あそび場の“ゴール”にはどのくらい近づいていると思いますか?
星野さん そうですね。私自身この活動を始めて25年になりますが、まだ移動式あそび場がないと十分に遊べない地域も多いですし、社会全体としてこの仕組みの導入が始まった段階。「活動開始10年でプレイカー100台」を掲げ、47都道府県にプレイカーとプレイワーカーの配置に向け、現在は半プレイヤー、半育成にシフトしています。(※1)
移動式あそび場が継続する仕組みを考えつつ、新しい領域とのコラボレーションを通じてあそびの可能性を広げたいと思っています。学校教育だけでなく、子どもたちの社会教育の場を作りそれらを繋ぐコーディネーターのような役割を担っていきたいですね。
――今では一緒に活動を広げてくれる仲間もいるんですね。
星野さん 全国に活動を共にする仲間がいて、学生との連携も積極的に行っています。以前、私の下で活動していた学生が、地域おこし協力隊として各地で活躍してくれているケースもあり、とても嬉しいですね。都市や防災、その他多様な分野を学ぶ学生たちが、移動式あそび場の運営を手伝ってくれることで、子どもたちがあそびを通して様々なことに実践的な学びを得る貴重な機会になっています。
――将来的にどのような展開を考えています?
星野さん 最終的なゴールは「あそび溢れる社会」です。ただ究極的には「移動式あそび場がなくなる社会」を目指していると言えるかもしれません。あそび場が地域や社会の中に当たり前に確保されていく、そういう状態が理想です。
プレイヤー目線におけるまちづくりというのは移動式あそび場の価値と深く繋がっていると思います。移動式あそび場をまちに組み込むことで得られる一番のメリットは、子どもたちが時間を忘れて楽しむ「あそび」という原体験を通して、「楽しいじゃん!」という気持ちを人生のあらゆることに繋げていけることだと考えています。「あそびは評価されない」っていうのがすごく重要で。子ども時代の体験を大人になっても大切にしてほしいです。
場づくりがまち、ひとをつなぐ
星野さんの熱意はまさに「あそび」を通じたまちづくり。空地がにぎわいの場に変わり、子育て世代の横の繋がりが生まれる光景は、これからの地域活性化のヒントを与えてくれます。移動式あそび場は、柔軟な展開で地域のニーズに応え、様々な社会課題の解決と未来の子どもたちの成長を温かく見守る存在でした。
執筆・撮影: 山田汐莉
編集: エリマネこ編集部