AMU35の取り組み
エリアマネジメントの実践者や研究者などからなる「全国エリアマネジメントネットワーク」という団体が、若手人材の育成のため「AMU35(アム35)」の活動を推進しています。今年で3回目を迎えたAMU35の視察会についてレポートします。
AMU35とは 全国各地で「エリアマネジメントに関わる人材育成やプレイヤー確保」や「実務を進めるにあたっての細かなノウハウ共有」「世代間でのまちづくりに対する職業観の違いを踏まえた働き方のシフト」といったトピックスに対して、若手が意見を交わし、具体的なアクションを紡いでいく(編んでいく)ため、35歳以下の若手実務者のコミュニティとして 2021年6月に立ち上げられました。 ※AMU35=Area Management / 編(あ)む / 35歳以下 (メンバーミーティングvol.12 AMU35の概要 より) |
現在に至るまで定期的なメンバーミーティングを開催し、各エリアの事例紹介や意見交換などを通して互いの学びを深めてきました。
AMU35の視察会は年1回開催されます。実際にエリアマネジメントが行われている現場に赴き、各地域における活動を自らの目で見ることで、得た知識や見分を普段の業務に活かすことを目指しています。視察は日本全国の中から毎年場所を変えて行われ、今回九州の福岡県を訪れました。
視察会概要
実施日:2024年8月1日(木)、2日(金)
視察先:福岡県福岡市 博多・天神エリア、北九州市 八幡・戸畑エリア
参加者:毎年4月1日時点で35歳以下の全国エリマネ会員、かつエリアマネジメント団体活動に職務として携わる者
参加人数:45名
視察会1日目 視察先① 博多駅地区
1日目は、まず「博多まちづくり推進協議会」の取り組みについて学ぶため、博多駅周辺へ向かいました。
「博多まちづくり推進協議会」が発足した背景には、九州新幹線の全線開業や博多駅を含めた都心部ビルの更新の時期が重なり、「個々の開発を超えて博多という『エリア』全体をどのように管理・運営するのか(=どう『育てる』のか?)」という課題があります。
「駅からまちへ、まちから駅へ、歩いて楽しいまち」を目指し、地元行政や大学、企業と連携を図りながら、歩いて楽しいまちづくりの先駆けとして駅前の通りを活用したイベントを実施しているそうです。公園の新たな使い方の模索活動として「キッチンカー」プロジェクトの実施、その他、防災セミナーや犯罪防止キャンペーンなどまちづくりにかかわる人たちの意思に根差した取り組みの紹介もありました。
▲2025年の開園に向け現在整備中の「明治公園」
特徴的だったのは、まちのにぎわいや魅力づくりを目的に福岡市が進める再開発促進事業「博多コネクティッド」がエリア内の各拠点に反映されていたことです。2025年の開園に向け現在整備中である「明治公園」も訪れました。福岡市管理の公園として初のPark-PFI制度を活用する例として注目を集めています。
現在、博多まちづくり推進協議会が行っている大通りの歩道側におけるフラッグ広告の貸し出しや、遊休地をシェアサイクルポートとして活用する収益化の取り組みも見学できました。将来的にこれらの取り組みを地権者によって実装化することを目指して、現在は博多まちづくり推進協議会がイベントを開催し、地域の店舗にも参加を呼びかけています。
▲博多駅前ビジネスセンターに設置されたシェアサイクルポート 公開空地登録がされ、現在29台が設置されている
視察会1日目 視察先② 天神地区
その後、「We Love 天神協議会」の活動エリアである天神地区を訪れ、行政との共働による都心部の諸課題の解決に向けた活動について学びました。
「We Love 天神協議会」が設立された背景には、九州一の商業集積地とも言われる天神地区のさまざまな活動主体と連携し、「開かれたまちづくり」を推進することがあります。同協議会は、生活文化や人に優しい環境の創造、集客力の向上、地域経済の活性化を目指し、地区内の商業者や企業、地域団体などによって2006年4月13日に設立されました。
「天神まちづくりガイドライン」の策定や自動車流入規制など歩いて楽しいまちの実現をはじめ、にぎわい創出に向けた公共空間を活用したイベントの実施などに取り組んでいます。
また、天神地区は福岡市の都市再開発プロジェクト「天神ビッグバン」と称して再開発とまちづくりを進めています。
視察の中で、歩行者を楽しませる上品な空間のデザインが特徴的な「天神地下街」も訪れました。天神地下街は、九州一の繁華街である天神地区の交通機関や周辺の商業施設・オフィスビルを結ぶ充実した歩行者ネットワークとして発展しています。
現在、再開発が進む中でまちが徐々に変化しているそうです。まちの変化に対応したエリアのにぎわいづくりとして、工事用仮囲いのアート装飾や公開空地・道路を活用したイベントやパフォーマンスが行われています。特に、福岡市役所の西側に位置する「ふれあい広場」は、天神のエントランス的な役割を果たしており、視察当日には「天神夏まつり」が開催されていました。
視察会2日目 視察先① 八幡東田地区
2日目は、まず「八幡東田まちづくり連絡協議会」の活動エリアである八幡東田地区を訪れました。
八幡東田地区では企業や経済団体、行政、市民が三位一体となって産業都市の大きな課題である公害問題を克服し、持続可能なまち並みづくりの発展を目指しています。工場跡地の再開発に伴う東田地区土地区画整理事業にともなって、利便性や快適性に優れた都市生活空間の整備が行われています。
JRスペースワールド駅前に位置する東田大通り公園では整備事業が進行中であり、今後の活用方法についても検討が行われています。公園の維持管理費の増加が課題となっている中、約100メートル離れたイオンモール八幡東とこの公園の間の回遊性向上に向けた社会実験が実施され、公共空間の活用に関する検証が行われています。
また、工場が立ち並ぶウォーターフロント地区には数少ない親水公園が整備されています。ここでは、現在は撤退した場外馬券場(ウィンズ八幡)の建物の利活用が課題となっています。
視察会2日目 視察先② 高見三条地区
午後は八幡東田地区からほど近い高見三条地区へ向かい、マスターアーキテクト方式によって緩やかに統一されたまち並みの景観維持活動について学びました。
高見三条は桜の名所として有名な、山と海に囲まれ東西に長い地区で、低層住宅ゾーン~高層住宅ゾーンに分かれています。電柱がなく、福岡県美しいまちづくり賞まちなみ景観の部で優秀賞も受賞しています。戸建て住宅のデザインコードや緑のデザインコードを定めて開発が行われたそうで、まち並み景観維持活動も行われています。
視察会2日目 視察先③ 九州製鉄所八幡地区の工場見学および世界遺産の見学
今回は特別に、日本製鉄株式会社よりご協力をいただき、九州製鉄所八幡地区(戸畑)の工場見学と、普段は一般見学は実施されていない世界遺産・官営八幡製鐵所旧本事務所の建物内をご案内いただきました。1899年に設立された、イギリス積み赤レンガ組みの事務所では、約100年前の図面や写真などが展示されており、当時の様子をご紹介いただき、西洋の文化を取り入れはじめ、まさに工業中心の時代に変わろうとしていた様子がうかがえました。工場見学では銑鉄を製造する高炉工場と熱延工場を間近で見ることができ、「炭鉱のまち」として発展してきた北九州を象徴する八幡地区の歴史や鉄鋼業を軸に栄えたまちの力強い息吹を感じました。
AMU35の視察会を通して
今回の視察を通じて、ふだん参加者らが携わるエリアとは異なるエリアマネジメントの現場で直面する課題や、今後のまちづくりの方向性について理解を深める貴重な機会となりました。
今回視察した福岡市都心部および北九州市八幡・戸畑エリアのエリアマネジメントは、再開発や建物の建て替えに合わせ、景観やハード面にもフォーカスした新たなまちづくりの方向性が特徴的でした。現状エリア内で使用されている施設や公開空地、道路などの場が、今後開発されていく建物とどのように連携し、各エリアが一体的に運営・管理されていくのかについて学ぶことができました。
また、視察会1日目の夜に行われた懇親会では、各参加者が普段の実務において抱える悩みや課題を共有し、新たな交流の場が生まれました。これをきっかけに、このような若手を中心としたエリアマネジメントコミュニティがさらに広がり、各地の活動に学びが活かされるのではと期待がふくらんだ視察会でした。